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みやこたまち
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不世出の水中舞踏家 水上定落創作伝

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 このように、水上定洛は、不遇な忘れ去られた偉人である。今後、水上の生涯、業績が発掘研究されることを、願ってやまない。

以上とりあへず


(付録 Inter_view_5_minutes 003;2000/01/30)

BEFORE MINUTUE
M :こんばんわ。宇祖田都子(以下M)です。さて、第三回目を迎えましたインターヴュウファイブミニッツです。今回は港南崎にあります「コンプ・ラヴォ」、ご存知ですよね? に来ています。第三回目のゲストの、三代目水上定洛さん(以下S)の楽屋にお邪魔してるんです。つい先ほどまで、この世のものとは思えないほど華麗に舞っていらっしゃった水上さん。お疲れのところ恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします。


FIRST MINUTUE
S :(大きく息を整えながら、上半身裸で、バスタオルを頭をかぶったまま)いや、こちらから日時を指定させていただきまして、恐縮しておりました。こんな格好で申し訳ございません。
M :とんでもありません。インタビューに応じてくださるだけで大変に光栄に思っています。先ほど舞台を見せていただいていたのですが、かなり体力と精神力とをお使いになられるのでしょうね。
S :お恥ずかしい話ですが、公演中は箱(劇場)に宿泊させていただいております。外へ出ることができないほど疲れてしまいますので。食事も流動食になりますから、かなり痩せてしまいます。そうですね、一週間公演で、十キロ前後でしょうか。
M :十キロも! ダイエットできないと嘆いている女性達に聞かせてあげたい言葉ですね。
S :(笑)ただ、公演後は相当取り返しますよ。でないと死んでしまいますから。



SECOND MINUTE
M :何故、このようなハードな舞踏をお始めになられたのか、聞かせていただけますか?
S :そう。何故だかわかりません。ただ強く惹かれたのですね。初代の伝記に。そんな世界があったのかと、そしてこんな人がいたのかということに。もちろん私は初代の舞踏を見てはいませんし、伝記も未完成なものでした。実際、初代の活動は昭和史の闇に葬られていたのですから。
M :『不世出の水中舞踏家ー水上定洛創作伝ー』ですね。途絶した芸術。確かにあれには継承者がいらしたとは書かれていませんでした。榎本健一さんがパロディとしたのが最後だと。
S :はい。それは確かなのです。水中劇は途絶した芸なのです。初代は弟子もとらず、子供もおりませんでした。私が稽古を始めた時に初代の芸に関する資料は何一つなかったのです。
M :それでは、あの、失礼なことを伺いますが、三代目といわれるのは?
S :私の伯父にあたる人が今風にいうとプロデューサーのや役割をしてくださいました。二代目は伯父です。初代のまだ見ぬ芸術を現代に甦らせる為に、伯父は全財産を投じたのです。
M :そして、三代目は全人生を投じられているのですね。



THIRD MINUTE
M :今回の公演は唯一初代の演目として明らかにされているのと同じタイトルを冠していらっしゃいますが、それはやはり相当の自信と覚悟があってのものなのだと推察いたしました。
S :誰一人見たことの無い芸術を断片的な証言から再現していって、ようやく人様に見ていただけるところまで来たという自負もありました。比べられる事はないでしょうが、だからこそ、私の舞踏から初代の力量を推し量られるというプレッシャーはございました。初代は闇に葬られておりましたが、わざわざ、「取るに足らない見世物芸人」として復活させるのは、申し訳が立ちませんものですから。
M :「オフェリアはナルキッソスの腕を抜けて」あの30トンの強化ガラスシリンダーの中で、三代目が自在に舞われて、不条理な悲しみと、すさまじい恋慕を表現し尽くしているのは、奇跡のように見えました。水中での二分四十秒は、三代目にとってどのような時間なのでしょうか?
S :なんといえばいいでしょうか。タナトスに触れないエロスは無いのだと感じております。体調によっては、たったそれだけの時間、息が持たないかもしれないという恐怖がつきまとうのですが、稽古した振りを全て終えるまでは、決して水面に顔を出せないのです。命と別のところで、身体が運動を、水との交接を求めているかのような乖離状態の時、呼吸できない苦しさは、私の中のぜんぜん別の所にある小さな我がままに過ぎないと感じられますし、そんな駄々っ子を見下ろす大きな視線と一体化した私には、なんともいえぬ快美がもたらされるのです。初代が行った厳冬の霞ヶ浦一ヶ月公演も、荒行のようにあの伝記には書かれておりましたが、私は苦痛ばかりだったとは思えないのです。
M :超人、ですね。
S :(大爆笑)マゾヒスティックナルシシズムとでも申しましょうか。そんな風なところまで追い込まれても、人はやはり快楽を求めるものなのでしょう。人の業かもしれません。
M :私の手にはとどかないところにある、快感、ですね。



FOURTH MINUTE
S :公演中に命を落とすという考えは、恐れではなく誘惑です。ですが、あの隠れる場所のないシリンダーの中で恍惚とした死を賜ったとしたら、私の舞踏を見て管さているお客様が、無様に浮き上がる私の死体を見せられる事になってしまいます。それを考えるとなんとしても、公演中に死んではならないと思うのです。
M :当局から再三、中止、解散の勧告がなされていると伺いましたが。それについては?
S :言論の自由。表現の自由。そんな所でしょうか。私一人の命をお国にとやかく言われたくはございません。どうぞお構いなく、というのが私の言い分でございます。
M :そうした反骨精神は初代もかなり強かったように、伝記には書かれていましたね。憲兵と衝突したこともあったとか。三代目は初代の芸だけでなく生き方そのものを再現なさろうとしていらっしゃるのでしょうか?
S :惹かれたと自覚したときから、私にはもう、どれが私でどれが初代なのか実はよく分からなくなっております。ですが、それは今の私にはどうでもよろしいことだと思われます。実際に初代を見ていないという点で、物真似にすぎないという卑屈な考えもさほど大きくはありませんし。結果的に、私の生涯が、初代と似通っているとしたら、それは面白いお話だと思います。



FINAL MINUTE
M :今回の公演はあと三日を残すのみとなりましたが、その後のご予定は?
S :今のところ、そう頻繁に公演が開けないのが残念です。初代も苦しんだように、現代でもこの舞踏のための舞台装置、といっても巨大なガラスシリンダーだけですけれども、これを設置できる箱がそうないものですから。しばらくは、また稽古、稽古ですね。冬には何とか新しい成果をお目にかけたいとは、私の中では考えておりますけれども、いかがあいなりますか。
M :初代水上定洛に何かおっしゃりたいことなどはありますか?
S :恐れおおいことです。あちらが私に怒鳴りたい気分なのではないでしょうか(笑)
M :水中劇を知っている人たちは少ないと思います。そんな皆様にメッセージをお願いします。