チョコレート
陽射しも差し込まないのに 窓を明るくみせている。
部屋はやや寒い。ぞくぞくっと冷える感じだろうか。
フローリングの床から ジンジンと冷えた空気が伝わってくる。
今年は まだ使わずに済んでいたが クローゼットに押し込められていた褞袍(どてら)を羽織った。「はい、お歳暮にゃん」とキミがくれた使い捨てカイロで手を温める。
寒そうな空を窓越しに見ながら原稿に書き止めるボクが居る。
夜中に降ったのだろう雪が 屋根の上にのっている。ときどき雪を積んだままの車が通った。そうか そんなに降ったんだ。しぃーんと静かな夜だなぁと感じていた。
今頃 キミは小さな雪だるまでも作っているのかなぁ。それとも南天の実を目に雪うさぎでも作っているだろうか。いやいや 自分が雪だるまのように着込んで 炬燵で丸まっているんじゃないかな。
そんな想像を 頭のどこかに浮かべながらボクは原稿にお気に入りの万年筆を走らせていた。
しばらくして、ふと窓の外の様子が変わった気がした。目を向けると また雪が降り出していた。牡丹雪だ。小さな雪が手を取り合って遊んでるかのように ゆっくりと大きめの雪が舞い降りては何処其処で積もっていく。ボクは、原稿から雪へと視線が移っていた。
玄関で音がした。
まさか、こんな寒い日にキミがやってくるわけなどないか……と思いつつも会いたい気持ちが湧いてくるのを感じた。それに この部屋の鍵をもっているキミなら入ってくるだろう。ボクは、聞き耳を立てる。 カチャ。(お、開いた)
ボクは、また原稿に向かう。素知らぬ顔をしていよう。そんな気持ちと裏腹なことも時には必要だ。いつもキミの行動に驚かされているからね。
靴を脱いでいるのかな。早くおいでよ。ボクの仕事場 独書室はこっちだよ。
なんて 凄く期待しているボクは、情けなくにんまりしているのではないだろうか。
リビングのドアが開いた。キミは静かにトコトコ入ってきて いつもの敷物のところに座ったようだ。(ん? どうした?)
ボクの視界にキミの姿を入れる為には、 振り返らなければいけない。
気が付いていることを 自ら示すのも躊躇する。だけどボクが何か言わないとキミはたぶんそのままだね。ボクの仕事の邪魔をしない。ずっとそうだ。
「雪、降ってきたね。寒かったろ?」
キミの返事が返ってこない。
「どうした?」
「…雪だるまさん お口を付け忘れてしゃべれないにゃん」
「あ、そう……」
答えてるじゃないか。まったく 可笑しなキミに巻き込まれていくよ。
「じゃあ 、雪だるまさんなら 温めてあげられないね。残念だ」
「ぴょんぴょん 雪うさぎさんは 跳ねてるよん」
おや、にゃんこが うさぎになったのか。何にでもなれるキミが羨ましいよ。
「そっか、うさぎさんだったから 啼かなかったんだね」
キミが ボクの背中にくっついてきた。ボクの耳に キミの冷たい頬が触れた。
首に回した手を 握ってあげようを思ったが、キミの手には小箱があった。
「はい これ にゃははっ」
「にゃははって 何?」
小箱から香る 仄かな匂いは……。 そっかぁ〜