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ACT ARME9 ~人と夢と欲望と

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「―――ッ!?」
ルインは咄嗟に攻撃を止め、体を横に倒した。銃声が鳴り響き、弾が頬を掠めたのはその0.数秒後である。
フォートはそのまま銃を手元に戻し、立て続けにルインに向けて発砲。たまらずルインは距離を取った。

「・・・ないわー。今のは流石にないわー。」
驚きを通り越してもはや引いている。ワイヤーでトリガーを引いて発砲なんて発想、普通しない。しかもその射撃が正確に顔に向けられていたのだから返す感想が浮かばない。
だったらもう、引くしかない。

戦況は逆転。一気にルインが不利になった。
一度使った手段がもう一度通用するはずもない。他に接近する術は今のところ全く思い浮かんでこない。
一応破断閃という遠距離に対応できる技があるが、あれは若干力を溜める必要がある。フォートの間合いの中でそんな事をすれば瞬く間に蜂の巣にされる。
唯一の隙として弾のリロードがあるが、どういうわけか、フォートはパッと腕を下ろし、再び上げるだけでリロードを完了させている。そんな小さな隙では、破断閃を決めることはもちろん、近づくこともままならない。片方の銃をリロードしている間も、もう片方の銃で撃ってくるのでなおさらだ。
今は何とか銃弾を防ぎ続けているが、銃口の角度のみで弾が飛んでくる位置を予測するなんて荒技がいつまで持つとも限らない。
本来なら銃口の角度だけでなく、相手の目線も見て予測するのだが、如何せん糸目のフォートではその目線が見えない。というか、よくあの目でここまでの精密射撃ができるものだ。
最初からわかっていたことだが、ここまで隙が無いともうなんだか泣きたくなってくる。
このまま集中力が切れて撃ち抜かれるのはごめんだ。なんとかして打開策を見つけなければ・・・。

一方フォートは、以前ルインと戦った時に感じた違和感を再び感じていた。
前述の通り、銃口の角度だけで弾が飛んでくる位置を特定するなんて荒技は無理がある。
己やNo.3のように、射撃に極端に長けているのであれば、これまでに培ってきた感覚で補うことができるが、見ての通りルインの武器は銃ではなく刀。何発かはまぐれで防げても、すぐに限界が訪れる。
しかし、圧倒的に押されているとはいえ、ルインは延々とこちらの攻撃を防ぎ続けている。
さらに先ほどの一幕。ワイヤーの先の銃から発砲されるなど普通だれも考えない。現にルインも予想だにしなかった素振りを見せている。
しかしそれでもルインは回避したのだ。ルインに勝利を確信させ、完全に虚を突いたにもかかわらず、だ。
その反応速度はフォートをも凌ぐ。いや、ほとんど未来予知のレベルである。
ルインは無自覚のようだが、明らかにこれは常軌を逸している。いったいこの男の底力はどれほどのものなのか。ツェリライがルインに関心を持つ理由がわかる気がする。
今は圧倒的優勢だが、このままでは敗北する。フォートがこれまで培ってきた戦闘経験に基づく本能がそう囁く。
とりあえずこの距離を保ち続ける。狙いを定めて打ち続けるだけの己と、無茶な方法で攻撃を防ぎ続けているルイン。どちらが先に限界が来るかは火を見るより明らか。最後に生まれた隙を突けば、それで終わりだ。
と、ここでフォートは、自分が勝利にこだわっていることに気付いた。これまで自分が勝利にこだわったことなどない。そもそも、自分がこれまでやってきたことは任務の遂行であり、勝負ではないため、勝利自体経験したことがない。
一度組織から離反し、かつての友に近い者を手にかけ、その際何の感慨も浮かばなかった自分はここに戻り、イレギュラーを起こした欠陥者として処分されるはずだった。
そこにこの者達が現れ、レックの言葉に己の欲を自覚させられた今は、この組織と、この者達とのけじめをつけるために今こうしてルインと相対している。
故に結果にこだわる必要はない。勝敗にかかわらず、己は後悔しないのだから。
だが今のフォートは正々堂々、真正面からルインに打ち勝とうとしている。この者に勝ちたいと、そう体が囁いている。
そして、今自分が最も渇望している勝利にあと数歩のところで辿り着きそうな場にいる。
そう考えると、自然と体に熱が入る。

その間もルインは、終始悪態をつきながらジリ貧を続けていた。このまま近づけなければ負ける。だが、無理に近づいても負ける。
あれ?これって詰んでね?
と、銃弾の一発がルインの腕を掠めた。距離が近かったため服が切れ、肌から血が流れる。
自分も遠距離武器に持ち帰るべきだろうか?いや、なれない武器を無理に使ったりなどしたら自滅するだけだ。そもそも飛び道具は自分の性に合わない。
しかし、それでも銃はずるい武器だと思う。フォートの実力を度外視したとしても、指を数センチ動かしただけで簡単に相手を葬れ、しかもその射程がほかの武器に比べて圧倒的に長いなんて、地味にチートじゃないか。
少ない労力で効果的なダメージを与える。それが銃の特徴であり、一番厄介な部分である。まあ、その代わりに攻撃力が常に一定というデメリットは抱えているが・・・。
・・・、ん?フォートの攻撃力は常に一定、対してこちらは孔や力の込め具合で攻撃力を自在に変えられる。
自分の遠距離攻撃である破断閃の溜めを無くし、威力を抑えてもっとコンパクトに撃ったら・・・。
思い立ったが吉日、早いところ実行するに限る。ルインはタイミングを計り、フォートの射撃と射撃の合間を狙う。
「今!」
ルインはいつもの破断閃と同じように、しかし踏み込みはせず、力も孔も極力短い間だけ溜めて、そして放った。
今までとは違う空気の流れが起こる。そしてルインに向けられた銃弾は飛んで来ることはなく、代わりにフォートのコートの一部が切れていた。
「おぉ〜。ぶっつけ本番だったけど大体うまくいったね。まだ精度が低いけど、まあそれはどんどん慣らしていけばいいか。」
ルインが安堵の息をもらす。これが決め手、というわけにはいかないが、とりあえずはフォートの間合いに対抗する手段ができた。後はこの技を使って接近できる隙をこじ開けるのみ。
と、その前に・・・
「せっかく新しい技作ったんだから技名考えないとなー。小破断閃(しょうはだんせん)、はベタ過ぎるか。うーん・・・」
戦闘そっちのけで考え込むルイン。ここまであけすけに隙だらけだと、却って攻撃しづらい。
ひとしきり考え込んだ後、ルインは技の名前を決定した。
「よし、フォートの銃見て思い浮かんだ技だから、刀の銃ってことで、刀銃(とうがん)って名前にしよう。」
新技の命名が終わったところで、ルインはフォートに向き直った。今度は防戦一方にはならない。どちらが勝るとも劣らない激しい攻防の中、どちらも決め手に欠けていた。
ルインは、致命傷となるような急所はすべてかわしているし、フォートも最初の一撃以外はすべて技を見切っていた。
しかし、フォートには勝算があった。ルインは先ほどからこちらが発砲してから反応し、銃弾をかわしている。一度発射された弾丸は軌道変更できないという銃の弱点を突いた戦法だ。
だが、それをするには並々ならぬ集中力が必要だ。それこそ飛んでくる銃弾以外は目に入らないほどに。