送り屋無情
美雪はため息をついた。今まで数々の男を殺してきた美雪だが、安浦刑事だけは後ろ髪をひかれる思いがあったのだ。
(しかし、安浦さんと市川俊樹が釣り友達とは……。麗佳さんが死んだ日も一緒に行ったのかしら?)
そんなことを考えていると、エレベーターが停まり、美雪の前でその扉を開けた。他に客はいなかった。美雪一人でエレベーターに乗り込む。
美雪は一階のボタンを押すと、壁に寄りかかった。扉は静かに閉まった。
(署長に次いで安浦さんか。ちょっと、面倒なことになりそうね……)
そんなことを思った瞬間だった。急にブチッと何かが切れる鈍い音がした。次の瞬間、美雪の身体は宙に浮いていた。そして、次の瞬間には思い切り美雪の身体は床に叩きつけられた。
ここで美雪の意識は途絶える。いや、正確に言えば、美雪がもう二度と起き上がることはなかったのである。そう、彼女は死を迎えたのだ。
ホテルのロビーには沢山の人でごった返していた。エレベーターの前にみんな集まっているのだ。
「エレベーターのワイヤーが切れたんだってよ」
「何でも若い女が死んだそうだ」
「しかし、エレベーターのワイヤーが切れるなんて、そんなこと、普通はあり得ないけどなぁ」
人ごみの後ろ、ロビーで新聞を眺めている男がいた。初老の紳士だ。その顔はどこか浮かない。
「あーあ、送り屋同士が引き合うなんてなぁ……。さて、次を探すとするか。何しろ地球上に人間は蔓延り過ぎたわ」
初老の紳士は新聞を畳むと、仏頂面でホテルのロビーを出て行った。その横を駆けつけた警察が通り過ぎていった。
(了)