SECOND HALF
そうそう、忘れるとこだった。
いつか、ホームから電車に飛び込みそうになった俺を引き留めたのは、カナじゃなくて佳奈だった。
なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。あの日、俺の後ろに並んでいた佳奈は、俺の様子がおかしいのに気が付いていて、電車が入線して来るときに俺がふらふら歩き出したんで、危ないって思って、必死で俺のズボンのベルトを掴んだんだそうだ。その後、恥ずかしくなってホームの一番奥まで移動しちゃったそうだ。
元々体が大きいせいで、人ごみの中では人一倍目立つ俺だけど、その時に振り返った俺がすごく印象に残ったそうだ。そのときの俺は、せつなさと悲しみと驚きが入り混じった、実に複雑な表情をしていたそうだ。
だからなのかな、その後、自宅の部屋で夜、居眠りをしていて俺の夢を見たそうだ。
夢の中の俺は、ダイニングテーブルで一人で泣きながら弁当を食べていて、その姿があまりに淋しそうで悲しそうで、佳奈は気の毒で思わず元気付けてあげたくなって、「元気出して」って声を掛けたそうだ。
あの夜の電車の中で酔っ払いに絡まれていたとき、酔っ払いを追っ払ってくれたのが俺だとわかったときは、あまりの偶然に驚くとともに、うれしかったそうだ。
作品名:SECOND HALF 作家名:sirius2014