SECOND HALF
俺はバッグからいつも持ち歩いているA5サイズのノートとペンを取り出した。ノートに文字を書きなぐる。
急いで書いたんで思いっきり汚い文字で少し恥ずかしかったけれど、8割じゃなくて10割わかって欲しかったから。書き終えた俺は、それを佳奈に見せた。
「話せなくたって、聞こえなくたって、
俺たち今、こうして会話してるじゃん。
俺はこれで十分だよ。」
それを読んだ佳奈の表情が、蛍光灯のスイッチを入れたみたいにパッと明るくなった。
今度は俺が全てを話す番だった。俺は、俺が佳奈に言ってなかったことを、ノートに一所懸命に書いた。
カナのことだった。
以前に結婚していたこと。妻が交通事故で亡くなったこと。佳奈と顔も名前もそっくりだったこと。
そして、佳奈と会いたかったのは、ただ顔が似ていたからだけじゃないことも。
それを読んだ佳奈はにっこり笑って、携帯電話に文字を打ち込んだ。
「だから私のこと、カナって呼んだんですね。
なんで私の名前を知っているのか、不思議でした。
今、やっとその理由がわかりました。」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
俺と佳奈は同じ私鉄沿線に住んでいて、同じ私鉄を使っているのに、今まで駅や電車で見かけなかったのは不思議だった。でもその疑問はすぐに解けた。
佳奈がいつも使っている駅の佳奈の自宅側に、新しく改札ができたのだ。それで、佳奈は電車の乗る車両の位置を新しい改札に近い場所に変えたんだけど、それがいつも俺が乗るのと同じ車両だったんだ。
新しい改札ができなければ、俺と佳奈は今でも別々の車両に乗って、遇うことも無かったかも知れない。俺たちのキューピッドは、あの酔っ払いのおっさんと電鉄会社ってわけだ。
作品名:SECOND HALF 作家名:sirius2014