俺の周りは曲者揃い!
しかし、時雨は自分の高校名を明かしたくなかった。というか、彼の過去の出来事がその名前を紡ぐのを邪魔していた。学校側は事情を飲んでいるため、伏せてもらっているが、クラスメイトに隠すかどうかは時雨次第とあらかじめ言われていた。
時雨は少し悩んだ後、答えを出した。
「田舎から引っ越してきたから多分、高校名言っても知らないと思う。あんまり有名じゃないし…。と、ところで茜は光輝みたいになにか部活に入ってるの?」
笑いながら自然に話を転換した。これが時雨の出した「逃げの」答え。
「私?私は剣道部に入ってるよ。こうみえても部長なんだから!」
「ほんと、部長に見えないよな。」
茜がえっへんと胸を張っているところに光輝が茶々を入れた。
茜は光輝を睨みつけた。
「ひどーい。あんたなんか隣のクラスのイケメンテニス部の人に部長の座奪われたんでしょ?しかも実力の方もその人に負けてるらしいじゃない。そんなあんたより実力も素質も私の方が部長にふさわしいでしょ?」
言ってはいけないことを言ったのか、今度は光輝の方も茜を睨んだ。
「そ、そんなこと今はどうでもいいだろ。それに俺は部長になりたいわけじゃないからな。」
「あら、負け惜しみ?そんなんだからいつまでも彼に勝てないんじゃないの?ハ・ト・ちゃん」
「なんだと‼」
「ちょ、ちょっと二人ともやめようよ。」
時雨の目の前で火花を散らしている茜と光輝。その火花の真ん中でオロオロしている薫。その脇でクスクスと笑っているリリィ+その他。
時雨もそれに合わせて笑う。
そして、時雨の高校に関する質問はこれ以降出てくることはなかった。
その後、茜、光輝、薫、リリィを含む8人くらいの人に囲まれて質問攻めに遭いながら時雨は今のクラスの現状(主に人間関係)を確認した。
渓は抜きとして時雨たちの元にいないのは四人。
一人は例の超絶美人の委員長。
彼女はこちらの会話に目もくれず、スラスラとノートに何か書いている。予習でもしているのだろうか?
もう一人は見た目不良っぽい女子生徒で椅子の背もたれに体を預けながら、スマートフォンをいじっていた。
イヤホンで音楽を聴きながら本を開いて自分の世界に入っている男子生徒もいた。
そして、時雨の隣の席で朝っぱらから机に突っ伏して、ぐっすりと眠っている女子生徒。確か自己紹介の時も、さっきの英語の時間も同じく机に突っ伏して寝ていた。
今のように隣で騒いでいても全く起きる気配がない。
最初からいなかった六人の生徒は置いとくとして、人数的にもう二人いるはずだが少なくとも今現在この教室にはいなかった。
寝ている女子生徒は分からないが、それ以外の三人はいわゆる「ぼっち」と呼ばれる部類の生徒なのだろうか。いや、スマートフォンをいじっている方は浮いていると言うべきか。
時雨がこのクラスの人々の関係を大まかに把握したところで、二限目のチャイムが鳴った。
時雨の周りにいた生徒は散っていき、自分の席へと戻った。
それと同時に渓も戻ってきて席に座った。
「かなりクラスのみんなと打ち解けているじゃないか。」
「そうか?」
確かに時雨は転校初日でここまでクラスの人々と仲良くなれたのは予想外だった。その点では、今回の大きな進歩と言えた。しかし、
「でも、まだ話してない人結構いるしな。クラス委員長とか、俺の隣で朝からずっと寝ている人とか。」
そう言いながら隣で未だに眠っている女子生徒に目を向けた。
「それに、今日学校に来てない奴らにも会いたいしな。」
「…そっか。」
渓は微笑んでいた。その笑みはどこか冷めていた。
そして、渓はすぐにいつもの優しい表情になると時雨に言った。
「クラス全員と仲良くなれるといいね。」
作品名:俺の周りは曲者揃い! 作家名:帝 秋吉