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俺の周りは曲者揃い!

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第四話 担任=曲者?



 時雨は雲一つない青空に向かって大きく背伸びした。四月の朝はまだ肌寒さが残るが、その寒さを温かく包み込んでくれるような朝日が時雨にとってとても気持ちいいものだった。
 こういう天気はつらいことなど忘れてさせてくれるだろうが、残念ながら時雨の頭のたん瘤の痛みは忘れさせてくれなかった…。
 転校先である桐谷第二高校は時雨が引っ越した家から徒歩十五分の位置にあり、その途中には商店街やゲーセン、カラオケの他に、桜をはじめとしたきれいな自然がたくさんある公園があったりと時雨にはかなりお気に入りの通学路だった。
 まだ朝早いので商店街は準備中のようで桐谷市の活気は味わえなかったが、代わりに桜が満開の公園の前を歩いて桐谷市の自然をじっくりと堪能した。
自然の景色を堪能しながら歩いていると、その視界の中に桐谷第二高校のシンボルであり、時雨の今の位置からでも十分に時間が分かるくらい大きな西洋の時計塔が見えてきた。
時雨はその大きな時計塔に向かって歩を進めた。
 期待と不安の入り混じった複雑な心境を抱えながら…



 桐谷第二高校は私立の学校で敷地内に場違いに思える大きな西洋の時計塔が特徴の学校だ。学科は普通科の定時制だが、何故か卒業生の三分の二が絵描きやミュージシャン、漫画家などの芸術的な分野に進んだ人が多いという、知らない人からみれば芸術専門学校のように思えるが一応ちゃんとした普通科である。
 桐谷第二高校のもう一つの大きな特徴は今の高校では珍しい少人数クラス制ということだ。その理由は他の高校と比べて生徒数が少ない割に教師がそれなりに多いということらしい。生徒数が少ないのは前述のとおり噂による偏見のせいであろう。
 桐谷第二高校の主な噂は「変人がいっぱいいる。」だが、他にも「美女がかなり多い。」や「変人の中に天才が混じっている。」、「かなり癖の強い人が集まっている。」などが噂として流れている。
 また、データとして見ると他の高校と比べ何故か大学進学率や就職率はかなり高く、桐谷第二高校の卒業生が何かしらのことで世界的に有名になる人も何人かいる。このことから、噂の中には偏見だけじゃなく敬意のこもったものもある。
 加えて、桐谷第二高校は生徒数が少ないので部活も少ないが、その少ない部活の中でかなりの優勝実績を叩き出しているところがある。柳崎鈴葉が入学する文武両道の桐谷南高校や多くの運動系列の部活を抱えている桐谷第一高校、同じく多くの運動系の部活を持つ工学系の専門学校である谷川工業高校には総合的に負けるがそれでもその三つの強豪校を倒し、インターハイに出場した部活も桐谷第二高校には存在していた。

 これらのことから桐谷第二高校は予想よりもかなり良い環境の学校ではないかと時雨は期待した。否、出来ればそうであって欲しいと思っている自分が心の中にいた。


 歩くこと十七分。時雨は校門前にたどり着いた。
桐谷第二高校の制服を着た生徒が友達と駄弁りながら普通に校門を通り学校の中に入っていく。当たり前の学校の風景、そして当たり前の如く時雨は緊張して校門前で足を止めていた。
 これから始まる新しい学校生活の不安で引き返したい気持ちを抑え、深呼吸をして気分を落ち着かせた後ゆっくりと校門に入っていった。
 前に転入届けを出す際に指示された通り生徒昇降口の一部屋挟んで左側にある職員用玄関から入った。職員玄関を入ったところで学校の登校風景が描かれた大きな油絵が飾ってあった。

 なぜだか引き込まれそうな感覚になった。

 時雨には絵の才能がないので理屈はわからなかったが、何故かこの絵は自分を引き付ける何かがあった。
 万年、美術2の時雨には絵の才能がないので理屈はわからなかったが、何故かこの絵は自分を引き付ける何かがあった。
 時雨は絵の前で数秒間固まった後、我に返った。時計を確認するとちょうど指示された時間になっていたので大きな油絵に対して左の廊下を進み応接室へと向かった。電話で担任が応接室で待っているから先にそちらに行くようにと指示されていた。
 応接室と書かれたプレートが付けられた扉の前まで来ると時雨は再び深呼吸をして、扉をノックした。
 ………返事がない………
 時間を間違えたのかと思い時計を確認したが時計の針はしっかりと指示された時刻になっていた。

(おかしいな…。電波時計だから狂うはずないし…。)

 もう一度ノックしてみたが返事はなかった。仕方なく恐る恐る扉を開けて中に入った。

「失礼します…。」

 応接室は意外と広く、三つぐらいの机に対して椅子が四つでそれぞれに仕切りがしてあった。
 少し進んで応接室を見渡してみたが誰もいなかった。とりあえずどこかに座って待っていようと思い、振り返ると視界に移ったものに思わず声が出てしまった。
 
「うわっ!」
 
 扉の死角にあって見えなかった四つ目の机と椅子。その椅子の一つに座り、机に突っ伏していたスーツ姿の髪の長い女性がいた。その女性は時雨の声に反応してゆっくりと体を起こした。

「ん…?」

 さっきまで寝ていたのであろうか。その女性は大きな欠伸をすると寝ぼけた眼で時雨を見つめた。
 時雨もその女性をよくよく見てみると目は虚ろだが意外と美人でとても若く見える。いや、実際かなり若いのかもしれない。それに加え、体を起こすとスーツの上からでもかなりスタイルが良く、なにより胸が…でかい…。
 そのスーツの女性は時雨を虚ろな目で見つめて、

「誰?」

 寝ぼけた眼で問いかけてきた。

「え…と、今日からこの学校に転入することになった柳崎時雨です。」
「あ~」

 眼は虚ろだが納得したような顔になった。

「あなたがこの学校に転入する変わり者君ね?」
「あ、はい。それで…先生がその変わり者が集まったクラスの担任ですか?」

 いきなり「変わり者」と言われたことに若干不服を覚えた時雨は皮肉を込めて尋ねてみた。時雨もそれなりに負けず嫌いなところがあるのだ。

「あ~そうそう。私がその変わり者クラスの担任の|白石美奈子《しらいし みなこ》です。これからよろしくね柳崎君。」

 時雨のささやかな皮肉は惜しくもスルーされてしまったが、どうやら本当に担任だったようだ。時雨も礼儀に習って挨拶をした。

「こちらこそこれからよろしくお願いします、白石先生。」

 お互いの挨拶が終わったことで、時雨は一番気になっていた(というか心配している)ことを先生に尋ねた。

「それで…さっき机の上に突っ伏していましたけど大丈夫ですか?」
「あ~大丈夫。大丈夫。ただの寝不足だから。」

 寝不足は寝不足で心配なのだが、先生の方も今では完全に目を覚めたようで、彼女の気軽な声を聞くに体の方はおそらく大丈夫であろう。ここで「そうですか。」と言って会話を終わらせてもよかったのだが、とりあえず担任のことを知っておくに越したことはないと思い、時雨は会話を続けた。

「寝不足ですか。やっぱり教師ともなると教材の準備とか次の日の授業の準備とかで」
「違わよ。」

 時雨が言葉を言い切る前に即答された。時雨はなにか間違っていたのかと思い考えを巡らせた。
 しかし、彼女の次の言葉は時雨にとって予想外のものだった。
作品名:俺の周りは曲者揃い! 作家名:帝 秋吉