俺の周りは曲者揃い!
第三話 高校生の妹=難しい!
「あ、あ、あ・・・」
柳崎鈴葉の顔は赤く染まり唇は震えていた。今まさにバスルームから出てきたとこらしく体は濡れており、もちろん全裸である。ただ幸運なのは大事なところが湯気で隠れていることか…
もし湯気で隠れていなければ、時雨が性欲を爆発させていたかもしれない。それぐらい鈴葉の成長した体にはかなりの誘惑力があった。
高校生ともなると胸を含めた体の方も発育しており、特に鈴葉は見ないうちにかなり成長していて、さすが女優の娘と言って誇れるくらいの体つきをしていた。
しかし、逆に高校生ともなると兄弟でも見えない壁を作る時 期である。ましてやいきなり全裸を見られたとなると…
鈴葉は顔を染めながらドライヤーに手を伸ばした。
「ちょ、鈴葉落ち着け。俺たち兄弟だろ? だからあからさまにドライヤーを違う用途に使おうとするな‼」
鈴葉はドライヤーをコンセントから抜き持ち手を折りたたんで投擲モードにしていた。
時雨の方もすぐにドアを閉めればよかったのだろうが、何分、見ないうちにかなり成長している鈴葉の姿に見とれてしまっていた。
「おい、待てって‼ 俺も入っているとは思わなかったんだ。」
それでも鈴葉は止まらず、無言で投擲のフォームに入った。
「後でアイス奢ってやるから許してくれ! というか、せめてドライヤーはやめて‼」
鈴葉の投擲モードに対し、時雨も土下座モードに移行。
時雨の必死の土下座に対し鈴葉は…
「ていうか…いつまでそこにいるのよ‼ このバカ兄ぃー‼」
確かにその通りである。そう思ったと同時にドライヤーが時雨の後頭部に直撃した。
朝から頭にたん瘤をつけられ、バスルームから強制的に追い出された時雨はシャワーを諦め、リビングに戻ってテレビをつけた。
朝のニュースを茫然と見ていると、時雨の頭にたん瘤をつけた張本人がリビングに入ってきた。鈴葉は時雨を見るや否や不機嫌な顔をしてテーブルに座り、朝ごはんを食べた。
「なんだよ、まだ怒ってるのか? こっちだって被害者だっての。」
「うるさいバカ兄! 朝から妹の全裸見に来るなんて本っ当最低!変態!」
やっぱり高校生ともなると、兄に裸を見られただけで兄を最低、変態扱いするなど精神的にも大人になっている証拠なのだろうか。
そして、鈴葉は一つ誤解をしていた。
「言っとくけど、俺は見たくて見たんじゃないぞ。俺はまだ寝ていると思ったんだよ。だから今回の件は完全に不可抗力だ。」
「嘘。」
「本当だって。」
「嘘。」
「ああもう! 何が悲しくて朝からお前の裸を見なきゃいけないんだよ。」
「・・・っ」
いつまでたっても誤解が解けないので時雨は嫌味を言ってみたが、どうやら逆効果だったようだ。鈴葉は箸をテーブルに打ち付けると勢いよく立ち上がり怒鳴った。
「何その言い方! 女の子に失礼じゃない? 最っ低!」
(どっちにしろ最低扱いかよ…)
「ま、まあ、とにかく落ち着けって。」
(ていうか、何で涙目になってるんだ?)
鈴葉は顔を赤く染め、何故か涙目になっていた。
(誤解を解くためとはいえさっきのは言い過ぎたかな・・・)
「鈴葉、ご」
「バカ兄は…私のこと見たくないほど嫌いなんだね。」
時雨が謝るより先に鈴葉は辛そうな声でつぶやいた。鈴葉は俯いて今にも泣きだしそうだった。
(何で本気で泣きそうなんだよ。これじゃあ被害者の俺が全部悪いみたいじゃないか。まあ、確かにさっきは言い過ぎたけれども‼)
このままだと妹とはいえ女の子を泣かせてしまうことになり、時雨の男としてのプライドが危うくなってしまう。そう思った時雨は大きなため息をするとテレビを消してソファーから立ち上がり、鈴葉の元に行き俯いている妹の頭を撫でた。
「ごめんな、鈴葉。さっきは言い過ぎた。」
「でも、俺も本当に見たくて見たわけではないぞ。そこんとこ誤解しないでくれ。」
鈴葉は俯いいてた顔を上げ、時雨を見上げた。
「本当?」
潤った目で見上げてくる妹に対し、時雨は不覚ながら動揺してしまった。
「あ、ああ。本当だ。」
「そう…。うちこそ疑ってごめんね………ハッ!」
「?」
鈴葉は何か気が付いたのかいきなり鈴葉の頭を撫でていた時雨の体を軽く突き飛ばした。
兄のなでなでから脱出すると何故かまた顔を赤く染め、一度咳払いすると、
「と、とにかく今回のことは偶然だったってことでお互い忘れること。後、次やったら偶然でも承知しないからね。」
(さっきのも偶然だったけど承知するは余地なかったと思うが…)
時雨は心の中でつっこまずにはいられなかった。
いきなり高校生特有の高圧的な態度になると顔を赤く染めながら足早にリビングを出ていった。階段を駆け上がる音が聞こえ、続いて扉が勢いよく閉められた音が聞こえた。
時雨は誰もいなくなったリビングで再びソファーに腰を下ろすと、ふと思っていることが言葉に出た。
「それにしても、やっぱ高校生ともなるとあんな態度になるのかね~」
しかし、よくよく考えてみると、さっきのあのシュンとしたような妹の表情がそもそもおかしかったことであり、今の高圧的な態度こそ高校生になった妹が兄に向ける本当の態度ではないか、と時雨は心の中で勝手に割り切った。というか、割り切らなければさっきの妹のシュンとした表情がなんだったのか気になってしまうのである。
時雨は再びテレビをつけた。さっきまで見ていたニュースは終わっており、天気予報になっていた。
天気予報を一通り見て今日は一日中晴れることを確認した時雨は、ソファーから立ち上がり軽く身体を伸ばすと、
「それじゃあ、俺もそろそろ準備するかな。」
時雨はリビングを出て、階段を上り、自分の部屋へと入って身支度をした。
時雨は身支度をしながら、もう今日一日なにも起こりませんように、と存在するわけがない神様に割と本気でお願いをした。
作品名:俺の周りは曲者揃い! 作家名:帝 秋吉