俺の周りは曲者揃い!
彼女の表情が変わった。期待から驚きへと。
覚悟はしていたが、まさかこんなに驚かれるとは思わなかった。そんな彼女の表情を見て、そんなにも驚かれる学校に転入することになっている時雨はまた憂鬱な気持ちになった。
「えーと、まあ、驚くのも無理ないよね…。あんまりいい噂聞かないし…。」
時雨はそう言って苦笑した。
「そうですね…。私としてはとても残念です。」
予想外の言葉が返ってきた。聞き違いかと思ったが確かに彼女は『「私としては」とても残念です。』と言った。『私としては』?
そして彼女が今いる駅は…
彼女の言葉に時雨はある一つの推測(というかおそらく当たっている)答えを導き出した。
「あの、もしか」
「あ、そろそろ行かないと。さっきは本当にありがとございました。」
時雨の言葉を切った彼女は、足早に改札に向かっていった。が、改札の前で彼女は突然時雨に振り向き、
「申し遅れました。私の名前は|夢月叶《むつき かなえ》です。また…会えるといいですね。」
彼女は最後に含みのある笑みを浮かべ改札を抜けていった。
茫然と彼女の背中を見送った後、時雨も改札を抜けた。これから生活していく新しい町の大地に踏み立ち、大きく体を伸ばした。
彼女とはきっとまた会う。時雨は確信していた。
変人ばかりだと聞いていたが、もしあんなきれいな子もいるのなら桐谷第二高校も悪いもんじゃないな。そう思うと時雨は少し気分がよくなった。
その時、時雨はふと彼女の名前に引っかかるところがあった。
(夢月叶…、どこかで聞いたことあるような…)
考えたが思い当たる節がなかったので時雨は考えるのをやめた。
今の時雨の気持ちは疲れに加え、明日からの新しい学校の期待と不安の気持ちでいっぱいになっていた。
作品名:俺の周りは曲者揃い! 作家名:帝 秋吉