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俺の周りは曲者揃い!

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第一話 出会い=再会?



 春休みが終わった。

 駅ではスーツの社員や制服の学生などの出勤、通学の人々が忙しく改札を行き来していた。
 そんな人の波に乗って進みながら高校三年生にして新天地へ赴くはめになった|柳崎時雨《りゅうざき しぐれ》は多くの人々で半場潰れそうになりながらも電車の中へと乗り込んだ。
 人口密度の高い中、運よく電車の窓側に立った時雨は流れゆく景色を茫然と眺めていた。
 その時、景色を見ていた彼の耳に隣に立っていた女子高生たちの会話が入ってきた。

「ねえ、桐谷第二高校って知ってる?」
「ああ、なんか変人ばっかり集まった学校でしょ?友達から聞いた。」

 彼女たちの制服に時雨は見覚えがあった。確か最近テレビで紹介していた有名な進学校じゃなかったか。
 しかし、時雨にはどうでもいい学校だったため、制服や顔は気にせずに彼女たちの会話に聞き耳を立てた。

「そうそう。なんか校則はあるらしいけどみんなやりたい放題らしいよ。」
「私は不登校がかなりいるって聞いたけど?」
「らしいね~。とにかく、そこ受験する人もイコール変人ってことだよね~。」

 女子高生たちの会話を聞き入っていた時雨は桐谷第二高校に行く=変人とされていることに若干ながらショックを受けた。
 その噂の的になっている桐谷第二高校は今まさに時雨が転入しようとしている学校だった。
 親が今まで住んでいた田舎の町から東西で反対側に位置する都市へ転勤するため、さすがに電車通学でも通える距離ではなかったので急遽、転勤先の町にある桐谷第二高校に転入することになったわけである。

 もう一つ理由はあるが、今は置いておくことにしよう。

 また、実際にその転入先の高校の噂は耳にしたことがあり、一応激しく反対してみたが結局押し切られてしまい現在に至っている。
 そんな経緯で半場憂鬱になりながら、窓の外をぼんやりと眺めた。
 女子高生たちの会話はすでに別の話題になっていた。


 電車で揺られること2時間。
 乗客が一人また一人と降りていき、一人また一人と乗り込んできた。時雨は未だに混雑した電車の中で揺られていた。隣にいた女子高生たちもさっきの停車駅で降りたので時雨の周りの顔ぶれも変わっていた。
 その時、突然横合いから小さな声が聞こえた。

「ひあっ・・・」

 可愛らしい声だった。
 目だけを横に向けると、いつの間にいたのかポニーテールの女の子が立っていた。年はおそらく時雨と同い年。花柄のキャミソールの上に薄手のカーディガンを着て、首には可愛らしいネックレスを付けていた。
 時雨にはあまり恋愛経験がないので断定はできないが、とにかくかなりの美人だ、と時雨は思った。
 そんな美女が今置かれている状況はというと・・・

 彼女はあたりをキョロキョロと見渡していた。
 彼女の後ろにはニヤニヤした不良っぽい若い人が二人。

 要するに痴漢である。
 二人はばれないようにやっているのだろうが時雨は犯行現場を(たまたまだが)はっきりと見ていた。
 まだ電車の中が混んでいるだけあって彼女自身は痴漢されていることに気づいていない。
 おそらく、彼女は電車の中の人口密度の高さのせいで人とぶつかってしまったのだと思っているのだろう。しかし、後ろの二人はそんな状況をうまく利用しわざとやっていた。
 痴漢など今の時代絶滅したと思っていたが、案外いるものだなと時雨はあきれていた。

「・・・・・・っ」

 また、触られたらしい。彼女は顔を若干赤く染めながら我慢しているようだった。

『まもなく桐谷に到着します。お出口は左側です。』

 ちょうどその時、時雨の目的地の到着を告げるアナウンスが流れた。
 彼女の後ろの二人は何やらひそひそと話していた。
 不良たちは電車の停車の揺れに乗じてまた彼女の体を触るつもりなのだろう。そう推測して、時雨はどうしようかと考えた。
 関わるのが面倒くさい、というのが時雨の本音だった。
 かれこれ半場つぶされながらも電車で揺られて二時間半。時雨は疲れていた。
 被害者になっている彼女はというと、未だに後ろの二人がわざと体を触っているとは気がつかず、混んでいるから仕方ないというふうに顔を少し染め、頑張って平然さを保っているように見えた。

 そんな彼女を見て時雨は大きなため息をした。
 
 電車が目的地に着き、時雨はホームへと降り立った。大きく背伸びし二時間半ぶりの開放感を満喫した。

「あ、あの…さっきはありがとうございます。」

 後ろからの声に振り替えると、さっきのポニーテールの美少女が頭を下げていた。彼女もここが目的地だったらしい。

「どういたしまして。そっちこそ大丈夫?」
「はい、おかげさまで。それにしてもまさか彼らがわざとやっていたなんて・・・私、てっきり電車の揺れで人がぶつかってきたのだと思っていました。」

 やっぱりそう思っていたのか、と時雨はあきれていた。
 ちなみに、その痴漢をしていた二人はというと、電車の窓からくやしさと怒りがにじみ出た目でこちらを見ていたが、降りてくることはしなかった。彼らは両方とも片方の腕を痛そうに手で押さえていた。
不良二人を乗せた電車が走り去っていくのを確認してすぐ彼女は話を切り出した。

「とても御強い方なのですね。さっきの二人をあっという間無力化する姿とてもかっこよかったです!」
「そんなたいしたことしてないよ。」

 美女の賞賛に少し照れくさくなった時雨は謙虚な姿勢になった。

「何か習っているのですか?」
「あー習っているというか…俺のお袋が合気道の先生でさ、小さい頃いろいろと叩き込まれたからその名残だよ。」
「武道の家系なのですか。だからそんなに御強いのですね。」

 そう言って彼女は微笑んだ。

「あの………名前とか教えてもらえないでしょうか?」

 さっきまでかわいい笑顔をしていた少女が突然、頬をすこし赤らめながらもじもじとして相手を窺い見るというかなりの威力を持った仕草をするものだから、恋愛経験のない時雨は思わずドキッとしてしまった。

「え…と、俺は柳崎時雨。」

 時雨はなんとか平然さを保って答えを絞り出した。

「時雨さん・・・。季節を感じるいい名前ですね。」

 そう言って彼女はにっこりとほほ笑んだ。
 いい名前と言われたのは生まれて初めてかもしれないと時雨は思った。
 時雨はあまり辛気臭い自分の名前が好きでなかったが、彼女の笑顔を見て、このときだけ初めて自分の名前に少し愛着を持った。

「みたところ高校生みたいですけど学校はどこですか?後日、改めてお礼をしたいのですが…」

 時雨はこの質問の答えをためらった。このことが大事になると、転校初日から(いい意味だが)目立つことになり、安定な学園生活を送りたい時雨にとってこのことが大事になることはあまり好ましくなかった。
 それに加え、今時雨が転校しようとしている高校は(いろんな意味で)有名な桐谷第二高校であり、変人の集まりと噂されている学校名をあまり言う気にはなれなかった。
 しかし、彼女の妖艶な期待の瞳に時雨は抗うことができなかった。

「桐谷第二高校かな。まあ、転入するのは明日だけど。」
「桐…谷…第二高校。」
作品名:俺の周りは曲者揃い! 作家名:帝 秋吉