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ゾディアック 9

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「 あんたちょっと食べ過ぎだろー 」とミクの腹をつっ突いた。

私はモーリィの頬を両手で挟むと「 あの聖典には、何が書いてあった? 」と聞いた。
「 ほぇ~!?何~? 」モーリィは面喰いながら唇をとんがらせジタバタした。

幻視はまだ続いていた・・
モーリィが修道士だった時の 最期の瞬間

暗いひんやりとした地下室の一角で、数人の修道士らが祈りながら泣いていた。
蝋燭の小さな灯りの中 黙々と作業をする1人の修道士がいた。
内側から石のブロックを積み上げ、外側で泣いている修道士達に
外から壁を塗り固めて漆喰をするように指示をした。
彼は、自らの墓を内側から築いていたのだ。

ヴァイオレットローブ、 彼には何の迷いも無い。
私の思考に対する呼びかけにも 答えず、ただ黙々と目的を完遂していた。

「 何を・・守るために? 」
「 ・・・・・ 」

最後のブロックをはめ込む前、彼は外の修道士達に 目で合図をして軽く頷いた。
修道士達の嗚咽は大きくなり、彼の名前を皆 口ぐちに叫んだ。
内側から 最後のブロックがはめ込まれると、
泣き叫ぶ修道士達によって壁は塗り固められた。
そして、その地下室自体も 地上から土砂で埋められ封印された。

彼は自らを永遠に葬り去った。大切な何かと共に

「 何を守ろうとしていたのか・・
何と戦っていたのか・・ 」

暗い闇の中で 消えかけた蝋燭の灯りにキラッと光る刃が見えた。
彼はその短刀を、自分の胸に深く突き刺した。
そして永遠に歴史から封印した。

「 彼が守ろうとしたものは、あの聖典だ!今もあそこに眠っているのか?」
私は 頬を挟まれ、もがいて騒でいるモーリィに言った。
ミクはモーリィの落とした菓子袋を回収すると、また隅っこで食べた。

バッ!ドアが開き、今度は店長のミオナが怒りながら入って
「 ちょっと!モーリィ煩い・・わ・・ 」中の様子を見て黙った。
「 マリオンさん・・ ちょっといいですか? 」私を表へ呼んだ。

「 何なんだろー、訳分かんないよぉ もー 」モーリィが頬をさすりながら言うと
菓子をほおばる手を止め、ミクが呟いた。
「 モーリィさん、マリオンには気を付けて・・ 」

ゼッタイニ ミテハイケナイモノ・・

ザワザワザワ・・・
部屋に黒い影が蠢いた


「 何?ミオナ 」受付に出て私が聞くとミオナが時計を指差した
「 これを見て下さい 」
その瞬間、カウンターにあるデジタル時計が 14:5☓になった。
「 ・・14時5☓分? 」私は聞いた。
「 じゃあこっちを・・ 」ミオナが音楽デッキを指差し
その瞬間、カウンターが145☓に変わった。
私は目を見張った・・「 わ、凄いね。何で分かったの? 」ミオナに言った。

今度は、携帯の写真を私に見せながらミオナが言った。
「 信号待ちで前にいた車です。ずっと、145☓が来るんですが・・ 何でしょう 」
ナンバーが14-5☓の車の写真だった。

「 145☓?・・地球歴? ・・あっ!!」
私が、いきなりバックのドアを開けて戻ると
驚いて身構えるミクとモーリィを後目に、パソコンを開いた。

「 145☓年・・これだ! 」
そこには、女神の宗派が教皇に執って替わった年代が書かれていた。


~ 66 ~

永遠の今、風に吹かれながら  
時は やって来る

運命の輪舞・・


カチッ!カチッ!カチッ!
暗闇にポウッと 蝋燭が灯った。

衣擦れの音と共に、灯りの中に少年の姿が浮かび上がった。
薄い はねずみ色の唐衣を身に纏い、口に指を当て
静かに・・ と私に目配せをすると 肩を寄せ合い身を屈めた。

私は自分の姿を見ようと腕を伸ばしてみた。
人形を握った 小さな手が唐衣の袖から覗いた。
童女のようだった。
この姿は・・ 今生まれて来たこの国の、千年以上遡った昔の
万葉の時代のようだった。

外では 犬の鳴き声と松明の炎が見え、追っ手が迫っていた。
幼い兄妹は手をしっかり握り合って、この野守りの小屋まで逃げて来たのだ。
味方は誰もいなかった。母亡き後、家督争いに巻き込まれ 後妻の放った刺客によって
明け方までには見つかり きっと2人は殺されるだろう。

冷たい風の吹きこむ、小屋の板間から空に星の瞬きが見えた。

「 兄さま、見てピカピカが 」
「 おお、ピカピカには、かか様が見てごじゃる 」
「 かか様が?・・兄さま、かか様とまた会えましゅるか? 」
「 会えるとも。また、3人で楽しゅう暮らそうぞ・・ 」

満天の星空の下、2人は肩を寄せ合い 手をしっかり握り合った。


果ても見ゆ
空の鏡に あらわれて
さきゆく雲の息聴こせ・・

願うる心鳥となり
深くもすめる 星におくらむ


私は目を覚ました。時計を見ると午前3時だった。
窓の外に青いシリウスの瞬きが見えた。
「 あの夢は、ユシュリと私の前世だ・・ 」

手をかざすと、ユシュリの温もりがまだ残っていた。


ユシュリガ・・
マリオン ユシュリヲ タスケテ

母の声が聞こえた。
「 これも夢だ。母さんはもう亡くなってる・・ 」
再び眠りに堕ちかけた時、人形を抱えた少女が現れた。
「 あの童女・・? 違う金髪の少女だ 」

ネエ、ミセテ
アレヲ・・

少女が指さす方を見ると、クローゼットの上に 少女の人形が置いてあった。
ブルネットの髪を束ね青いドレスを着た少女の人形だった。
少女に渡そうと手に取り見ると、 その人形は・・ 私が小さい時に持っていた人形にそっくりだった。
「 これは・・ 」人形を掴んだ私の手が、夢の童女の小さな手に変わった途端

ザアアアーーーー・・!

白い花吹雪が起こり、顔を覆った。
目を開くと、私が人形を差出している少女は、小さい時の自分だった。
私は笑って 人形を受け取った。
人形を手渡したのは、私ではなく母に変わった。
桜の舞い散る木の下で、小さな少女の私と母は一緒にいた。

ユシュリヲ・・
マリオン ユシュリヲ

タスケテ ・・

「 ユシュリを・・ 助けて? 」私は繰り返した。

ギィィィーーーーーーー!!!

突然、錆びついた鉄戸が軋む音のような悲鳴が劈き
桜の下の 母と幼女の私のビジュアルは掻き消え、暗黒の炎に飲まれていった。
ゴフッ・・ ボタボタ・・
真っ黒な血反吐が床に落ちた。

鳩尾の辺りから黒く焼けながら、
私の腕や身体は 見る間に煉獄の炎に包まれていった。
周りには凄まじい阿鼻叫喚がこだましていた。

ネエ、ミセテ・・

アンタノ カルマ ヲ

目の前に 人形を差出した 金髪の少女が、笑っていた。



~ 67 ~

魂ちはゆ
冬ごもりせぬ 身しろなば
今もこの花 春にかはらず・・


私は 一年ぶりに 父に電話した。
「 はい、あら、マリオンさん?久ぶりねお元気にしてらっしゃる? 」
出たのは 父の後妻ミツコだった。
彼女は元高級クラブのママで霊媒師でもあった。
10年前母亡き後、代議士をしている父に再婚話が上がる度、私は何度も邪魔をして来た。
しかし、このミツコにだけは 何故か反対出来ず・・ むしろ共感を持つ事が多かった。
作品名:ゾディアック 9 作家名:sakura