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ゾディアック 9

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それは、今の自分が目に見えない世界に生きている事にも関係しているような気がした。

「 ミツコさん こんにちは、ご無沙汰してます。・・親父いる? 」
「 ああ、お父さんは今いらっしゃらないわ。何かお伝えします? 」
「 ええ、・・それが 」私は少し詰まったが、ミツコなら解ってもらえる気がして言った。

「 それが・・ 母が、毎晩夢に現れて、兄のユシュリを助けてと私に言うの 。
それで、ちょっと気になって、親父何か知ってるか電話してみたんだけど・・ 」

「 ・・・・・ 」
「 ミツコさん? 」
「 あ、あら・・そうなの?それは、多分お母様が お兄さんを心配されて出てこられたのね・・ 」
ミツコは少し、狼狽えた感じで答えた。
「 ・・ユシュリに何かあったのかしら 」私は言った。

「 実はね、お兄さん・・ お仕事がうまくいってない様子なのよ・・ 」
ミツコは小さな声で私に言った。その時、フラッシュバックが起こった。

3年前の父の議員選挙の時、選挙カーに乗り込んだ瞬間のビジョンが蘇った。
前の助手席にユシュリが座り、後部座席には私とミツコが乗り込んだ
その瞬間、暗黒の煙が沸き起こり、ユシュリの背中を覆い包んでいくのが見えた。
その暗闇は・・ 後部座席で私と共に談笑する ミツコから放たれていた。

オマエナンカニ・・ ナニモ ワタサナイ
オマエナンカ・・ イナクナレバイイ

ザワザワザワ ・・

闇が ヒソヒソ・・囁きながら ユシュリを覆っていった。
バッ!!眩しい光が起こり・・ 目の前に現れたのは・・あの夢だった。

千年以上遡った昔の万葉の時代
幼い兄妹が手をしっかり握り合って、野守りの小屋まで逃げて来た。
外では 犬の鳴き声と松明の炎が見え、追っ手が迫っていた。

味方は誰もいなかった。母亡き後、家督争いに巻き込まれ 後妻の放った刺客によって
明け方までには見つかり 2人は殺される。
冷たい風の吹きこむ、小屋の板間から 空に星の瞬きが見えた。

「 兄さま、かか様とまた会えましゅるか? 」
ユシュリは私の手をギュッと握り、笑顔で答えた
「 会えるとも。また、3人で楽しゅう暮らそうぞ・・ 」

果ても見ゆ
空の鏡に あらわれて
さきゆく雲の息聴こせ・・

願うる心鳥となり
深くもすめる 星におくらむ


ユシュリの最期の歌だった。

マリオン ・・ ユシュリヲ・・


「 マリオンさん?もしもし、マリオンさん? 」ミツコの声がした。
「 ああ、ごめんなさい。ぼうっとしちゃって・・ ユシュリを助けなきゃ
ありがとうミツコさん、またね 」
「 ・・・ 」
私は電話を切った。

店に着く前に、着信が鳴った。義姉のデミからだった。
「 マリオン、今日帰りに 下の茶店で待ってる 」

私の鳩尾に、何かが燻り始めていた。

作品名:ゾディアック 9 作家名:sakura