ゾディアック 9
阿鼻叫喚のこだまする煉獄の炎が 私の鳩尾から燃え上がり身体を包んでいった。
私はミクの心象世界を追体験していた。
「 あんたは、確かに失った・・ と思った。でも今、私の前に座って話してる。
概念が味わった 喪失体験を、印しとしてね。 本当は失ってなんか無いんだよ 」
炎の中で、ヤツが少女に言った。
幻視が消え、部屋は元に戻った。
「 概念が味わった 喪失体験が、印し・・ 」ミクが言葉を繰り替えした。
「 私達の意識が 分からないという闇を相手にするには、その概念自体が 印しってことさ。
つまり、本質的な状態の光にとっては、その考え方自体が死を迎える 」
「 考え方自体の死・・ 」ミクは頭を押さえていた手を放した。
本質的な状態の光が、おまえを再びここに生かし、思い出させている。
「 本質的な状態の光・・ 」少女の目に映る 天使の言葉をミクは繰り返した。
「 そう。それが本当のミクだよ。過去世のマインドの森に棲む、少女を迎えに行くんだ。
私と一緒に 」最初のカードを指差し、私は言った。
~ 64 ~
意識は分からないを嫌う
前世を知らない 今の自我が、本来の美しい魂の自分に出逢う為には
最期にそれを葬り去った 恐怖のマインドと
もう一度、対峙しなければならない。
ここは意識の闇の世界
眠っている墓を暴く者は・・ 私だ。
もう一度、本当のおまえと出逢う為に
おまえの闇とつきあう・・
ダルマとして
我が名は ルシフェル
光もたらす者
人は私を悪魔と呼ぶ。
「 三枚目、未来のカード 」私が言うと、ミクは恐る恐るカードを開けた。
剣のペイジ。剣を持った少年が、彼方を見据えて荒野にたたずむ様子が描かれていた。
無邪気さや子どもっぽさ、気まぐれ、また 強い好奇心を表す。
「 これを見て、何を感じる? 」私はミクに聞いた。
「 何か・・見つけたいものがあって、旅立つ前に剣の練習をしています 」
「 剣の練習?誰かと戦うの? 」
「 危険が待っているかもしれませんから・・ 用心してます 」
「 そうか、森には危険が潜んでるかもしれないものね 」私は言った。
この剣のペイジが暗示するメッセージは、秘密に関わる事の真意を知りたいと思い
危険を犯してしまう可能性と、それによる予期しない展開を示していた。
「 でもきっと何かを見つけれます 」ミクは無邪気に言った。
「 4枚目、アセンデットからのメッセージ 」私が言うと、ミクはカードを捲った。
ⅩⅠ正義。右手に剣を 左手に天秤を持った玉座に座る 裁判の女神が描かれている。
自分と他人、理性と本能、精神と物質、対なる物とのバランスを促し
行動による審判の結果から、まいた種を刈り取る。魂の純化、清めを表す。
このカードは、人生の中での未発達な領域の教育や学びについての暗示があった。
「 ・・・ 」ミクは黙っていた。
「 このカードを見て 何を思う?・・ さっきⅩⅢ死神で出したように 」私は現在のカードを指差した。
「 意識が 分からないという闇を相手にするには、その概念自体が 印しなのさ 」
「 裁きが下される・・ 」ミクが小さな声で言った。
「 本質的な状態の光にとっては、その考え方自体が裁かれる 」私は言った。
「 ???? 」
「 つまりアセンデット、あんたの本質的な状態の光からのメッセージは“裁くな”だ 」
「 裁くな? 」ミクが繰り返した。
「 この森の家に棲んでいた少女、あんたの心は、遠い昔 閉ざされ、
決して出してはいけないと裁かれた 」私は言った。
ココロヲ ダシテハイケナイ ・・
ナカヲ ミテハイケナイ ・・
煉獄の炎の中で、金髪の少女が呟く。
心を閉ざし 外に探し求めながら、次の転生へと向かった
脳神経外科医になって、身体を切り刻み 外に見つけようとしたもの
今も探し求め彷徨い続ける。
「 断罪し、極なるものの自らにバランスを取り戻せ。と、この女神は言ってるのさ 」
ⅩⅠ正義のカードを指差し私は言った。
「 この女神が・・ 」ミクが繰り返した。
かつてのおまえの心が・・ 夢と希望に満ちて輝き、
愛と平和に生きる信仰心を教わった女神だ。
少女に・・ 軍服の外科医に・・ ミクに・・ ルシフェルは言った。
「 5枚目、本心 」
ミクがカードを捲った。
ワンドの9。砦の上で、棒を握りしめ、外の様子を伺っている人物が描かれていた。
頭にけがを負って、またいつ来るともしれない襲撃に備え、身構えている。
このカードは防衛を表し、隙のない構えと 頭に巻かれた包帯は、以前に戦いを経験したことを物語っていた。
「 何を感じる? 」私は聞いた。
「 また起こる事への恐れ・・ でもその思い自体が印しなら 」ミクは続けた。
「 それが印しなら、過去のトラウマに対する防衛を 私は恐れている・・? 」
「 そう。恐れに対する答えを、あんたは既にもう知ってるのさ。
何故なら、それによく似た状況は 過去に起こっているから 」私は言った。
「 私が答えを知ってる?分かりません!見つからない! 」ミクは混乱した。
私は、アセンデットのメッセージ ⅩⅠ正義のカードを指差した。
「 “裁くな” それが 極なるものの自ら、内にバランスを取り戻す 」
~ 65 ~
バッ!いきなり更衣室のドアが開いた。
「 あ、何か面白そうな事やってるー 」モーリィが入って来た。
オイルに使ったタオルを洗濯袋に放り込むと、ミクの側に座り込んで来た。
ミクは広げたカードを集め、私に渡しながら言った。
「 ありがとうございました。モーリィさんもタロッシュやってみれば? 」
「 タロッシュ?何それー面白いの? 」モーリィは大きな瞳をクリクリさせて聞いた。
「 運命を導く・・バイブルさ 」私はニヤリとして言った。
「 バイブル? 」
モーリィがそう言った途端、フラッシュバックが起こり、モーリィの背後に紫のオーラが現れた。
あの修道士のビジョンだった。
鍵のかかった引出しを開け、中から紋章の刺繍が入ったビロードの布を被せた
四角い箱を取り出すと大事そうに抱え、見ている私の身体をすり抜け 急いで部屋を出て行った。
風が・・ 私の身体を吹き抜けていった
「 そうか!あの箱は バイブル・・ 聖典だったんだ!! 」私は言った。
驚いて見ている2人の視線を通り越し、私は遠い過去を見つめていた。
盛大な法皇就任の式典がビジョンに現れた。
「 修道士は‥? 」私は彼を探した
紫のフラッシュバックが起こり、彼がいた。
サン・マレーナ聖堂。タリアにある女神の聖堂だ。
彼は、そこで行われた東西教会の司教が集まる公会議に出席していた。
それは、分裂した教会の統合を目指す、彼にとって歴史的な瞬間であった。
生涯の目的、その為に聖典を持ち出したのだ。
彼は人間界に 癒しと平和を齎そうとしていた。
女神の使徒 ラファエルと共に・・
「 だから、修道士の幻を轢いた時 ノートルダム(我等の女神)があったのか 」
モーリィは私の言葉にお構いなく ミクの菓子袋を開けてボリボリ食べながら、