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竜王号の冒険

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 無数の竜の荒れ狂う思念がイルフィの中に入り込んでくるが、彼女は意識を集中し、群れの先頭に立つ、巨大な金色の竜へ向けた。
「ソーマ君、聞こえる!?」
(ウ……ウゥ……)
「しっかりして、ソーマ君!!」
(ボ……ボク……ボク……ハ……)
『残念だが、無駄な努力だよ』
どういう方法を用いているのか、カムジンの声が二人の意識の間に割り込んできた。
『ソーマの特異体能力は、完全に覚醒されているんだ。今さらうわべだけの自我なんかで、彼の意識をコントロールすることはできやしない。彼は今、完全に僕の制御下にあるのだからね』
「あなたになんか、彼の心は支配されたりしないわ!」
『ほほぉ、どうしてそんなことが言い切れるんだい?』
「一番身近な人……セリンさんの気持ちも理解していなかったあなたが、他人の心など、判るはずがないもの」
『黙れ!!』
 神竜が咆哮を上げ、灼熱のブレスを竜王に向かって吐き出す。船底ぎりぎりをかすめて外れたのは、カムジンはわざとそうさせたのか、それともソーマの残された意識がカムジンの支配に対して対抗したためだろうか?
『テアは僕を裏切った。僕と共に、父さんや母さんの仇をとろうと誓ったのに、心変わりをしたんだ。裏切りに対する制裁は当然じゃないか!』
「彼女があなたを裏切ったんじゃないわ。彼女はあなたを愛していた。だから、あなたの暴挙をなんとかして止めようとしてたのよ」
『黙れ、黙れ!!』
 再び神竜がブレスを吐く。やはり狙いは外れていたが、先ほどよりも船体との間隔が狭まってきている。
『イルフィ、まだか? まだ、何とかならんのか?』
 インカムを通じて聞こえるリューガの声は緊迫していた。
「まって、ソーマ君としての心は残っているみたいなんだけど、神竜の意識の方が強くて」
『神竜のブレスの間合いが確実に狭まってきているんだ。あれの直撃を食らったら、ひとたまりもないからな!』
「ソーマ君! 返事して! あなたは、他の誰の者でもない、あなた自身のものなのよ!!」
(ボク……ハ……ボ、ボボボボボクハ……)
『小賢しい。いくら呼びかけても無駄だと、何度言わせれば理解するんだい?』
(ウ……ウァ……)
 ソーマの意識が、イルフィの中に流れ込んでくる。
 焦燥と不安。自分自身の存在が消えていくという感覚に対する、絶対的な恐怖感。今にも消え入りそうな灯火のように、それは小さくか弱い心だった。
 ……もしかすると、すべての竜がそうなのかもしれない。
 環境を維持するための装置として創られ、ただそれのみのために生きている自分。
 その自分に対する不安と恐怖が、彼らを攻撃衝動に駆り立て、人を襲う原因なのかもしれない。
 イルフィは、憎しみに駆られるあまり、自分が竜の本当の姿をまったく見ていなかったことに気づいた。
 ……憎んでいては、駄目なんだ。心を開き、竜を受け入れなければ……。
(ア……アァアアアァァッ!!)
『さて、そろそろこの愚劇にも幕を引こうか。せめて、その目で世界の終わりを見ないで済むことを、感謝して欲しいな』
(タスケテ……タスケテ、オネエチャン……!!)
「ソーマ君!」
『さようなら、イルフィ・ランディス船長』 
「………………!!」
 神竜が三度目のブレス攻撃の態勢に入る。
 悲鳴に近いリューガの声が、イルフィの鼓膜を刺した。
『駄目だっ!! 回避するぞ!!』
「船を止めて、リューガ!!」
『しかし、イルフィ、やつは……!!』
「お願い!」
 船は、神竜の真正面に静止した。指呼の距離に神竜がいる。
 イルフィは目を閉じ、祈った。

 ……父さん、あたしに、力を……!!

 光が、竜王のへさきから放たれた。
 一点の光は、巨大な光の球へ一気に成長し、周囲すべてのものを飲み込んでいく。
 竜たちの放っていた殺気が、まるでその光に浄化されるように消え去っていく。
『何だ……なにがおきた!?』
 カムジンは、まったく予想外のできごとに意識をとられ、神竜への命令を忘れてしまう。
 光が過ぎ去り、元の光景が戻ってくる。
 神竜の姿が消えていた。
『ば、馬鹿な……神竜が消え去るなんて、そんなことあるはずが……』
 狼狽を隠せないカムジンは竜王のへさきに立つ者をみて、さらに驚愕した。
『あ、あ、あれは……あれ一体なんなんだ!!』
 そこにイルフィの姿があるのは、先ほどと何も変わらない。
 彼女はその腕に、人の姿に戻った神竜……ソーマを抱いている。
「……ソーマ君」
 イルフィに呼びかけられたソーマはゆっくりとその目を開き、イルフィの顔を信じられないものでも見るようにじっと見つめた。
「おねえちゃん? ぼくは、なんでここに……?」
「よかった、元の姿に戻れたのよ、ソーマ君」
『お、おい、イルフィ!!』
 リューガが調子のはずれた声で叫ぶ。
「そう叫ばなくても聞こえてるわよ」
『お、お、おまえ、その背中の……』
「……え?」
『背中の翼は、一体どうしたんだ!?』
 イルフィは、ソーマをそっと降ろすと、肩越しに振り向いた。
 自分の背中から生えているそれを見て、あっと声を上げて驚く。
 光り輝く竜の翼が、そこにあったのである。
「な、なに、これは……!?」
「おねえちゃん、ぼくと同じだね」
「……ソーマ君?」
「ほら」
 そういうと、ソーマの背中から、彼女のものと同じ、光り輝く翼がにゅうっと生えてくる。
「……じゃあ、やっぱり、あたしにも流れていたんだ。特異体……神竜の血が」
 イルフィはすべてを理解した。
 ギルドは古代人の教えに従い、特異体を排除するために古くから活動を続けてきたが、過去から現在まで生み出されたすべての特異体を捕まえることができたわけではなかったのだ。
 中には普通の人間として人々に混じって生活をしたものもいたのであろう。テグや、他の『竜読み』と呼ばれたような者たちのように。
 現在ではおそらく、血の濃さの違いこそあれ、かなりの人々が何らかの形で神竜の血をひいているに違いない。
 きっかけさえあれば、彼らもまた彼女のように能力を覚醒させることもあるだろう。人と竜をつなぐ絆は、人々の間に、確かに形作られていたのだ。
 あれほど激しく行われていた戦闘は、いつのまにか終息していた。
 竜がとつぜん攻撃を止めたことにとまどっているのだろうか、生き残ったギルド軍の武装艦も発砲を止めて、竜たちの様子をうかがっている。
 イルフィは、この空域に集まっているすべての竜の意識をひとつひとつ、明確に感じ取ることができた。
 突き刺さるような殺気を放つものはもう、一体もいなかった。皆、イルフィとソーマに意識を集中し、次の指示を待っている。
『ばかな……神竜が、特異体が、二体存在しただと……!?』
 カムジンの声からは、それまで感じられていた余裕は消え去っていた。
「あたしたちだけじゃないわ。神竜の血は、すでにあたしたちの間に広がっているの」
『なんだと……!?』
「もう、あきらめなさい。テルファスさん。たった一人の神竜を使って、竜を操ることはもうできない……あなたのたくらみは失敗したのよ」
『……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁ!!』
 カムジンの小型船が、竜王に向けて発砲した。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす