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竜王号の冒険

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 イルフィとリューガは、セリンを助け起こそうとするが、銃創からのぞく複雑な機械を見て、思わずその手を止める。
「ふふ……そうだ。私の身体も、兄が使っていた人形と同じ、作り物だ」
「そんな……」
「なにを驚くことがある? 古代人の文明が竜に滅ぼされてから、何百年経っていると思うのだ?」
「それじゃあ……本当のセリンさんは、もう……」
「ああ、そうだ。テルファスの妹、テアはもう、この世にはいない。ここに残っているのは、彼女の記憶だけだよ」
 セリンの義体が、機能不全を起こしてけいれんする。
「セリンさん……しっかり!!」
「兄は……テルファス兄さんは、優しい人だった。優しすぎたから、君たちや竜をあそこまで憎んでしまったのだ……」
 二、三度まばたきすると、まるで子供のような表情に変わる。イルフィに手を差し伸べ、少女の声で、彼女に哀願した。
「もう何もかも、遅いのかもしれないけど……おねがい、兄さんをとめて……」
「……判ったわ。だから、安心して」
 セリンは満足したようにうなずくと、その瞳を閉じ、義体の全機能を停止した。
「セリンさん……」
「悲しんでいるひまは、どうやらなさそうだぞ、イルフィ。早くここを脱出しよう」
「……うん」
 セリンの義体をおいて、二人はエントランスの外へと駆け出した。
 竜王までたどり着き、息を切らした二人が振り返ると、ちょうど施設全体が、轟音を立てて崩壊するところだった。
 巨大な施設が倒壊したことによって生じた突風が二人を襲う。イルフィとリューガはその場に伏せて、風をやり過ごした。建材や機械のがれきや破片が至る所に飛び散ったが、幸いにも、二人に直撃したものはなかった。
 ようやく風がおさまり、イルフィはふらつきながら立ち上がる。
 巨大ながれきの山と化した施設の上空に、一隻の小型船が浮かんでいた。
 純白のくさび形をした小型船は、施設の崩壊を見届けると、聞き慣れないエンジンのうなりを上げて、その場から西に向かって飛びさっていった。カムジンが乗っているものと思って、まず間違いはなかった。
「……で、これからどうするんだよ?」
「カムジンを追いかける。彼を止めないと」
「セリンとの約束を果たすため、にか?」
「………………」
「それとも、ソーマを助けるために、か?」
 イルフィは小首をかしげ、かすかにほほえみを浮かべる。
「それだけじゃない、と思う。よくは判らないけど……自分のためにも、そうしなきゃいけないような、気がするんだ」
「そうか……」
 リューガは両手を腰にあて、空を仰いだ。
「そうだな。あんなとんでもないことを企んでいるやつがいるんじゃ、逃げたところで結果は一緒だしな」
「ごめん、リューガ。最後まで、わがままにつき合わせちゃって」
「勘違いすんなよ。俺も、俺のために奴を追いかけるんだからな」
 リューガは後頭部をかいてみせる。
「それに、こんな見せ物最後まで見届けなきゃ、後悔するだろうしな」
「うん、そうだね」
 イルフィはうなずくと、彼が見上げているのと同じ西の空を見上げる。
 自分たちにどこまでできるか判らない。けど、やれるだけのことはやろう。
 たとえどんな結末が待ち受けているとしても……。
 父さん、あたしは……。

    4

 ……有史以来、一度も止んだことのなかった竜の海の嵐が、止んだ。
 それは、エアシーズの歴史にとって、二度目の破滅につながる悲劇の幕開けでもあった。

 ケアズへ向かって侵攻する竜の大群に対処するために、ギルド艦隊は持てる全艦をその侵攻路の途上に集結させていた。
 セリンの乗艦であった『アジ・ダカーハ』と同型のギルド総旗艦『ウロボロス』を中心とした総数百隻におよぶ艦隊は、堂々たる布陣をひいて竜の群れを待ち受けていた。
「司令、まもなく竜の群れが、有効射程範囲に入ります」
 艦隊司令はうなずくと、無線を通じて、全巻隊へ発令した。
「全艦、砲雷撃戦準備。竜の群れが射程に入り次第、全砲門をもって、これを攻撃する!!」
「竜の群れ、有効射程に入りました!!」
「……攻撃、開始!!」
 旗艦の発砲を合図に、全艦隊がいっせいに砲撃を開始する。辺りは、艦砲の発する黒煙に覆われ、一瞬、まるで夜のように暗くなる。
 黒煙が消え去り、視界が回復した瞬間、ギルド艦隊の乗員たちは皆、我が目を疑った。
「竜の群れは完全に無傷です!!」
「そ、そんな馬鹿な……!!」
 艦隊司令はたじろいで、へなへなと指揮官席に腰を落とした。
 竜の群れの先頭に立つ、黄金の竜が咆哮を上げる。
 竜たちは、あたかもそれを合図とするかのようにいっせい速度を上げ、ギルド艦隊へと突進した。
 セリンの艦隊が、竜の群れを相手に演じた絶望的な死闘がそのままそっくり、規模を大きくして再現される。猛り狂う竜の群れの前に、艦隊はまったく無力だった。
 竜の群れの背後でその様子を見守っていたカムジンは、艦隊がいともたやすく全滅させられていく様をながめ、まるで何かに取り憑かれたように笑った。
「もっと撃て、必死になって戦え、そして恐れ、怯えるがいい。これはおまえたちが受ける、当然の報いなんだよ」
 ギルド艦隊と竜の群れとの戦いを食い入るように見つめるカムジンは、後方から一隻の狩猟船が近づいてくることに、気づいていなかった。

「ソーマに話しかけて、あいつを正気に戻らせる!?」
 イルフィの提案を聞いて、リューガは呆れかえる。
「そうよ、他になにかいい手があって?」
「そりゃねえけど、しかしな……」
「……確証はまったくないけど、上手くいくような気がするの」
 イルフィは窓の外で演じられている戦闘……というよりは一方的な殺戮を見つめながら答えた。
「もし、父さんが本当に『竜読み』……特異体だったのなら、あたしにもその血が流れていることになる。つまり、あたしもあの神竜と同じかもしれないの」
「……イルフィ」
「それに、これまで何度か、ソーマ君の意識を感じたことがあるけど、彼はあたしのことを拒絶してはいなかった。彼の意識を元に引き戻すことは不可能じゃないと思う」
 リューガはイルフィの思いつめた顔を見て、それ以上、何も言うことができなかった。
「……判った、おまえの考えるとおり、やってみるとしよう」
「ありがとう、リューガ」
「まあ、失敗したときのことを考えてもしょうがねえか。どうせ駄目ならあいつらに殺されてしまうのは一緒だしな」
 リューガは急に、イルフィの手をとると、自分のそばへと引き寄せる。
「!?」
 あっけにとられたイルフィが答えるまもなく、リューガはその唇にキスをした。
「ん!」
 イルフィはリューガを突き飛ばして身体を放すと、頬をまっ赤に上気させた。
「な、なにするのよ!」
 リューガは照れもせず、真顔で答えた。
「ドジるなよ、イルフィ。おまえの正体がなんであろうが、そんなことは関係ない。必ずやり遂げて、一緒にケアズに帰るんだ……いいな」
 イルフィは無言でうなずくと、ブリッジを出て甲板に降りると、船のへさきの見張り台に立った。
 船が加速し、カムジンの乗る小型船の脇を通り過ぎると、竜の群れの真正面へと出る。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす