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竜王号の冒険

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「なによ、リューガらしくもないわね。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」
「……その、おまえのオヤジさんな、実は……」
 その時、目に見えない力が、イルフィの頭を締めつけた。
 あの竜の大群が現れたときと、似たような感覚である。重苦しく、はりつめた気配が彼女を包み込んでいく。
 不安と警戒に満ちた、無数の視線が自分たちを見つめているようだ。
「……おい、どうした、イルフィ?」
「なにか、いる……」
「え?」
「沢山の何かが……あたしたちを取り囲んで……」
「どこだ? どこにいるんだ?」
 リューガは懐から拳銃を取り出すと、周囲を見まわす。しかし、辺りは濃厚な夜の闇に包まれた視界には、動くものはひとつとして見えない。
「しっかりしろよ、イルフィ……なにもいないじゃねえか」
「……感じるのよ。無数の視線が、船のを囲むようにして……」
「………………?」
 がさっという物音。彼らの視線の先で、何かが動いた。
 やがて、その動きは波紋が広がるようにがさがさと、周囲にへと広がり、そしてゆっくりと近づいてくる。
「な、なんだ……!?」
 まるで巨大な生き物のようにうごめき接近してくる影。
 リューガは拳銃を構え直す。
 テントからもれる、かすかな明かりに近づき、ようやく影の正体が判別する。一個の巨大な影かと思われたそれは、人に似た形の無数の生き物であったのだ。
「……!?」
「なんだ、こいつらは……!?」
 おそろしさ、というよりはそのおぞましさにイルフィは息を飲んだ。
 直立歩行する姿は人間のようにも見えるが、半身をうろこに覆われており、竜にもよく似ている。
 そして、顔面についた、不気味な複眼。青くにごった無数の複眼が、彼らをじっと見すえている。
「なんなんだ、こいつら? 人なのか、それとも竜なのかよ!?」
「……どうした? 何かあったのか?」
 テントから出てきたセリンは、予想だにしなかった光景に直面して全身を緊張させた。
「セリンさん!!」
「ここは危ない。ランディス船長、ダイスン副長、船の中に避難するんだ」
 いうなり、セリンはきびすを返し、テントの中に飛び込む。
「セリンさん!」
「私はオルダスを連れて行く。君たちは早く船へ!」
「待った、俺も手伝う。イルフィ、急いで船に戻れ!!」
「でも、あたしも……」
「いいから、早く戻るんだ!!」
 リューガとセリンがいれば、オルダスを運ぶことはできるだろう。
 そう言っている間にも、得体の知れない生き物たちの包囲はどんどんと狭まってゆく。
 イルフィは脱兎の勢いで船へと走った。
 地面に降ろされたタラップを駆け上がる。甲板に上がると、下を見下ろし、オルダスを担いで走ってくるリューガたちに声をかけた。
「リューガ、セリンさん、急いで!!」
「くそっ!!」
 リューガたちは、かろうじて包囲の輪が閉じるまえに、タラップに到達する。二人が駆け上がると、化け物の群れがそれに続いた。タラップはその重さに耐えかねて大きくしなって軋みをあげた。
「はやく、二人とも!!」
「るせぃ!! 今行くから待ってろ!!」
 だが、タラップを登り切ろうとしたその時、二人は強い力で後ろに引かれ、もんどりをうって倒れてしまう。
「うわっ!!」
「あっ!!」
「リューガ!! セリンさん!!」
 化け物たちが、オルダスの足首をつかみ、二人を引き倒したのだ。
「ってえ!!」
「だいじょうぶか、ダイスン副長」
 セリンが敏しょうな身のこなしで起きあがると、リューガを助け起こす。二人はそのままタラップを駆け上がり、オルダスを引き上げようと手を伸ばした。イルフィも二人にならんで、オルダスを助け上げようとする。
 だが、イルフィの腕をつかんだのはオルダスではなく、化け物の手だった。
「や、やめて、はなしなさい!」
「イルフィ! 手を引くんだ!!」
 リューガとセリンは、オルダスを引き上げることをあきらめ、イルフィの身体を押さえて後ろに引いた。
「腕……腕がちぎれる!! まるで機械にはさまれたみたいで……なんて馬鹿力なのよ、こいつ!!」
 化け物にぐいぐいと手を引かれ、ついにイルフィリューガたちもろとも、甲板からタラップへ転落しそうになる。
「きゃぁっ!!」
 その時、一発の銃声が轟く。銃弾に腕を引きちぎられた化け物が、断末魔の悲鳴を上げて地上へ落下した。
 イルフィたちは、反動で甲板の上に尻餅をついた。
 銃を発砲したのは、意識を失っていたはずのオルダスだった。
「オルダス! 早く甲板に上がるんだ!!」
 セリンが呼びかけると、オルダスは血の気の引いた頬をかすかにほころばせて言った。
「私は……もうあなたとはいけません。ランディス船長、少佐を、頼む」
「馬鹿をいうな! 早く、早く来るんだ!!」
 セリンは腕を伸ばして銃を構えたままのオルダスの腕をつかもうとする。
 その指先が、彼の手をかすめた瞬間、タラップの留め金が甲高い破壊音を立てて壊れた。化け物とオルダスを乗せたまま、タラップは地上へと落ちた。
「オルダス! オルダス!!」
 我を失い、自分も地上に飛び降りようとするセリンをイルフィとリューガがくい止めた。
「離せ! オルダスを助けねば!!」
「もう、無理だ、セリンさん!! 残念だけど、彼は助けられない!!」
「……!!」
 セリンは我に返ると、へなへなとその場に崩れ落ち、ぼう然と地上を見下ろす。地上はうごめく化け物どもの群れに覆われており、すでにオルダスの姿は見えなくなっていた。
「オルダス……」
 リューガにうながされ、セリンはおぼつかない足で立ち上がる。
「さあ、ブリッジへ急ごう。船を発進させないと、俺たちも危ない」
「修理が終わってればいいんだけど」
 イルフィたちは化け物の侵入にそなえて甲板へ通じるハッチをロックすると、その足でブリッジへ急いだ。
 すでにブリッジにはサバンスが待ちかまえていた。
「お嬢様、ダイスンさん、よくご無事で」
「サバンス、船の修理状況は?」
「はい。機関部はまだ完璧ではありませんが、船はいつでも出すことができます」
「よっしゃぁ。イルフィ、船を出すぞ」
「上空に竜の群れがいたらどうしよ?」
「その時はその時だ。今はここを離れる方が先決だ」
「うん、そうだね」
「機関室! 竜核機関始動!!」
『竜核機関、始動するっす!!』
 耳なじんだ低いうなりが置き、竜王は船体の水平をゆっくりと回復してゆく。
『機関、微速運転から、巡航運転へと移行、揚力、十分っす!!』
「よし……総員に告ぐ、竜王、発進するぞ!!」
 船体がきしみをあげ、ゆっくりと上昇を開始する。
 化け物の群れは、竜王の船底にしがみつき地上へ引きずり降ろそうとするが強力な竜核機関の生み出す揚力を抑えることはできない。
 何匹かの化け物はそれでもしぶとく船底にぶら下がっていたが、船が高度を増すにつれ、一匹一匹と落下していく。
 やがて船体は雲海の高度に達する。まっ黒にうねる雲の中に入ると、ブリッジからの視界は完全に効かなくなった。
「さて、雲を抜けたとき、まっているのは竜の群れか、それとも……」
「………………!?」
 イルフィは、再び何かの視線を感じる。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす