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竜王号の冒険

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「誰が操っていたというんですかい? あの竜の大群を!?」
「……テルファス・ファイン」
「テルファス?」
「ああ……君たちがカムジン・カラブランと呼んでいた、あの男だ」

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「……カムジンが、竜を操っていた!?」
 イルフィは驚愕のあまり、しばし絶句した。
 あのカムジンが、竜の大群を操っていた……!?
「まあ、いきなり言っても信じがたいことだと思うが、これは紛れもない事実なんだ」
 セリンの表情は真剣そのものである。とても嘘いつわりを述べているとは思えない。
「しかし……どうやって竜を操るってんですかい? まさか犬猫のように、竜に芸当をしこむわけでもありますまい」
「竜に直接、命令するわけではない。竜とコミュニケートできる特殊な能力を持つ者を介して、竜をコントロールするんだ」
「竜と、コミュニケートできる特殊な能力……」
「君たちも狩猟船乗りなのだから、聞いたことはあるだろう。君たちはその力を、『竜読み』、と呼んでいるようだが……我々はそうした能力を持つものを特異体、と呼んでいる」
「『竜読み』……ま、まさか!?」
「その、まさかだ」
「……あの、ソーマがその、特異体であった……と」
 イルフィとリューガは、しばし絶句した。
 しばしの沈黙。
 照明用のアーク灯にさそわれた羽虫が、光の中に飛び込む。その焼かれる、じじじ……という音が、やけに大きくテントの中に響く。
 やがて、セリンが言葉を続けた。
「……我々ギルド軍は、二つの目的を持って設立された組織だ。ひとつはエアシーズの治安の維持。これは君たちも知っての通りだが、もうひとつ、特異体の探索と捕獲という重大な目的を持っているのだ。表向きには、一切公表されていないが、な」
「なぜ、公表しないんですか?」
「特異体の存在を多くの人間に知られてしまえば、またいつ、カムジンのような輩が特異体の力を利用して、今回のようなことを企むかもしれないからだ」
「………………」
 確かに、竜を自在に操ることが可能と知れば、よからぬことを企む者は現れるに違いない。
 だが、イルフィはセリンの話に釈然としないものを感じていた。
 カムジンがソーマの力を使って竜を操っていたことは判ったが、では、彼はなぜソーマにその能力があることを知っていたのか?
 そのことを尋ねると、セリンはしばらく考え込んでから答えた。
「彼は我が軍の動きをはじめから知っていたのだろうな。そして、特異体発見の情報をえて、我々から特異体を奪取しようとしたのだろう」
 まず、軍の情報部といつわって、カダミ・ホーソンに接近を図り、特異体回収のためと言って、特務船をこの竜の海に派遣させる。
 そして、特務船が軍部より先んじて特異体の回収に成功すると、今度はソーマの能力を使って特務船の乗組員を排除した。
「そして、一方で彼はもうひとつの擬態……つまりカムジン・カラブランを名乗っていたあの自動人形を使って君たちに接近し、先の特務船まで誘導し、特異体を回収したのだろう」
「彼は……カムジン、いえ、テルファス・ファイン本人はどこにいるんですか?」
「………………」
 イルフィの問いに、セリンは表情を硬直させる。
 イルフィは、自分の発した質問の何が、彼女に緊張を強いているのか判らかった。
「……彼は、おそらく、この巨大な遺跡群の中心に位置する、ある施設にいるはずだ。この、竜の海の、そして世界の中心に位置する、あの場所に……」
「セリンさんは、そこまでいくつもりなんですか?」
「……私には、テルファスを止めなければならない義務があるからな。それが、おそらく私にとってできる、唯一の……」
 セリンは思いつめた表情でしばし何かを考え込んでいたが、やがてわずかに柔和な表情に戻って言った。
「拘束してすまなかったな。君たちのことを疑っていたわけではなかったんだ。ただ、急ぐことゆえ、ああいう形で艦内に拘束して置いた方が、結果的には君たちにとっても安全であるとと思ったのだ」
「あ、いえ、べつにもう、そのことは……ねえ、リューガ」
 イルフィはリューガに話を振ったが、彼はまるでずっと遠くを見つめているような表情で二人のやりとりを聞いているだけで、答えようとはしなかった。
「……リューガ?」
「あ、ああ……そうだな。実際あんたの言うとおりだしな」
「ったく、人が話をしているときに、何をぼさっとしてるのよ?」
「るせーな、ちょっと気になることがあるから、考え事してたんだよ」
 二人のやり取りを聞いていたセリンは、かすかに笑みを浮かべる。
「仲がいいのだな、君たちは」
 思わぬセリンのつっこみに、イルフィは顔を上気させる。
「い、いえ、リューガとはその、子供の頃から一緒に育っただけで」
「そ、そうだぜ。あんたがどう思ってるのか知らないが、こんなのは別に……」
「昔のことを思い出した。父と、母と、そして兄がいて……もう、ずっと遠くになってしまった、懐かしい記憶だ」
 セリンはそう言うと、遠い視線を天幕の外に見える空に投げかけ、沈黙した。
 それ以上、話を続けることにためらいを覚えたイルフィは席を立つと、テントの外に出た。
 相変わらず空はまっ黒な雲に覆われているが、風と雨はほとんど上がっている。ここが竜の海とは思えないほどの、不気味な静けさが辺りを包んでいた。
 イルフィはセリンから聞いた話を整理してみる。思い返してみれば、彼女はいろいろと話をしたようでいて、その実肝心なことは何ひとつ語っていないことに気づく。
 カムジン……テルファスという人物が、特異体のソーマを利用して竜を操り、ギルド軍の艦隊を襲撃させ、それを全滅させたことは判った。
 しかし、ソーマやテルファスが何者かについては、まだ彼女は一切話してはいない。
 彼女は軍人である。非常時とは言え、軍部の機密のすべてを、外部の者にもらすようなことはしないだろう。
 しかし、イルフィには、彼女がテルファスたちの正体を隠していることには、単に機密の保持という意味以外の、もっと重大で深刻な秘密が隠されているような気がしてならなかった。
『おねえちゃん……』
 ソーマが見せた、苦悩の表情が脳裏に浮かんでは消える。
 あの時、確かにイルフィはソーマと自分の意識がつながるの感じていた。彼女もまた、見えないはずの竜の姿をみていたのである。
 それは、セリンが言った特異体としての能力が、彼女に影響したためだろうか?
 それとも、他に理由が……。
 彼女は、ソーマのことをもっと知りたかった。特異体とは、一体……?
 テントの中からリューガが姿を現す。
 彼はイルフィのかたわらに歩み寄ると、辺りの様子を見わたしながら言った。
「ぞっとしない、夜景だな。まるで、世界全体が死んでしまったみたいだ……」
「そうね……」
「なあ、イルフィ……実は、おまえに話していないことがあるんだ」
「話していない?」
「ああ、親方……おまえのオヤジさんのことなんだけどな」
「父さんの話……?」
 リューガは、なぜかちゅうちょしたように口ごもる。彼がこれまでイルフィにそんな態度を見せたことは一度もない。イルフィは彼の挙動に不信感を覚えた。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす