小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

竜王号の冒険

INDEX|22ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 

 巨大な黒い武装船を中心に、二十隻近くのギルド軍の艦艇が、『竜王』の上空に停泊していた。彼らを照らしていたのは、武装船が発するのサーチライトの光だったのだ。
『私は、ギルド軍調査部少佐、セリン・カーランドだ』
 拡声器の割れるように響く声が、イルフィたちに呼びかける。
『地上の狩猟船の乗組員に告ぐ。おとなしく投降せよ。さもなくば攻撃する』
「ギルド軍が、なぜあたしたちを……!?」
 なにが起きているのか理解できず、イルフィはただぼう然と立ちつくし、上空の武装船を見つめていた。
『くり返す、おとなしく投降せよ。さもなくば……』 


第四章『テルファス』

   1

 明かり取りのために作られた、もうしわけ程度の小さな窓越しに、イルフィは地上の様子をながめていた。
 兵士たちがテントなどの設営のためにせわしく走り回っているようすがこの上空からも見てとれる。軍人ではない彼女にも、それが長期間にわたってこの空域に駐留するための準備であることは理解できた。。
 簡素な寝台に身を投げ出し、部屋の中を見まわす。独房とは言え、広さは彼女が『竜王』で使っていた個室と大差がない。そのせいだろうか、不思議と、閉じこめられていることへの不快感や息苦しさは感じなかった。
 鋼板張りの味気ない天井を見上げながら、彼女は考えごとにふけった。
 兵士によって引き離される直前、リューガが言っていた。
『やつらの本当の狙いは、我々の逮捕ではねえでしょうな』
 ……と。
 どうやら彼の推測は正しかったようだ。たしかに、たかが狩猟船一隻を拿捕するのには、この艦隊の規模は大げさすぎるし、彼らの逮捕だけが目的なら、長期駐留の準備などする必要もないはずだ。
 ……一体、ギルド軍はなにをしようとしているのか?
 いくらここで考え込んでいても、推測に必要な情報が絶対的に不足している以上、なんの解答も得られないことは十分よく判っている。
 しかし、いくら頭でそのことが理解できても、それで心情的に納得できるわけではない。いくら振り払っても、同じ疑問がまるで水泡のように彼女の心の中に浮かび上がり、彼女は思考の堂々めぐりを続けていた。
 ……そうして、どれだけの時間を過ごしたろうか。ノックの音が、彼女の思考を中断させた。
 鋼鉄製のドアがゆっくりと開かれ、ひとりの士官らしい男が顔をのぞかせる。ていねいだが厳しい口調で彼は言った。
「でなさい。司令官があなたの話を聞きたいとおっしゃっている」
 むろん、逆らうつもりなどない。
 むしろ、これは自分が置かれている状況を知る絶好の機会である。
 イルフィは、男の申し出に素直に応じ、独房を出た。

 尋問室というのだろうか。
 広さは先ほどまで閉じこめられていた独房と同じくらい。部屋の両端に出入り口があり、ちょうど中央をしきる鉄格子をはさんで、一対の椅子が向かい合わせで置かれている。
 士官らしい男は、椅子に座るよう命じると、ひとり彼女を残して部屋を出ていった。イルフィはしかたなく椅子に腰を降ろすが、居心地の悪さを覚え、落ち着かない。
 と、格子の向こうがわのドアが開いて、高級士官の軍服をまとった若い女性が入ってきた。優雅で無駄のない動作で椅子に腰をおろすと、じっとイルフィのことを見つめた。
 イルフィは彼女の顔に既視感(ルビ:デジャヴ)を覚える。確かにどこかで会ったことがあるような気がした。
 女性士官が口を開いた。
「私は、ギルド軍本部調査部の、セリン・カーランド少佐だ。イルフィ・ランディス船長」
 イルフィはなぜ自分の名前を知っているのかと尋ねようとしたが、すぐにその質問の無意味さに気づいて言葉を飲み込んだ。
「緊急を要する状況であるため、このような形で君たちを保護することになった。ご容赦とご協力を願いたい」
「……あたしたちを、保護?それって」
 セリンはイルフィの言葉をさえぎって、言葉を続けた。
「理由や状況は機密事項なので、答えることはできない。協力してもらえるなら、君と、君の船のクルーの、作戦終了後の自由は保障しよう。そのことを理解いただいた上で、こちらの質問に答えて欲しいのだが、よろしいか?」
 うむを言わさぬ口調である。裏返して言えば、協力しない限り今後の自由は保障できないと言っているようなものではないか。
 聞こえはいいが、協力を強要されていることには違いがない。
 イルフィはため息をつくと、答えた。
「……判りました」
 ここで逆らったところで、何の意味もないことは考えずとも判る。どのみち、協力的に質問に答える以外に、彼女にできることはなかったのである。
「では、早速質問に入ろう……先日、君たちは座礁したギルドの輸送船と接触しているはずだが、その時の経緯から説明願いたい」
 イルフィは、ギルドに報告したときと同じ内容をセリンに説明する。セリンはほとんど黙ったまま彼女の話を聞いていたが、話がソーマのことに及ぶと、やおら口をはさんだ。
「……では、その少年の身元については、はっきりとしたことはなにも判らない、ということか?」
「はい、本人が記憶喪失のために、ほとんど何の情報もえられませんでしたから」
「なるほど、記憶がなかった……か」
 セリンは納得したようにうなずく。
「で、その少年は行方が判らなくなっている、というのだな」
「はい、出資者のカムジン・カラブランさんと一緒に、不時着してから行方が判らなくなっています」
「………………」
 イルフィの口からカムジンの名前がでると、セリンはかすかに眉をひそめ、沈黙した。
 逮捕される直前、カムジンの私室で見た、あの謎の装置と写真のことをイルフィは思いだす。ソーマとカムジン……二人には、いったいどんな秘密があるというのだろうか?
「カーランドさん……いえ、少佐。教えていただけませんか? リューガ君とカラブランさんには、一体どんな関係があるんですか?」
「君には関係のないことだ」
「あたしはたしかにカラブランさんの部屋で、リューガ君の写真を」
「私たちがカムジン・カラブランを追っているのは、彼にカダミ・ホーソン殺害の容疑がかかっているからだ、とだけ教えておこう」
「支局長が、殺されたんですか……?」
「そうだ。君たちがケアズを出航する直前のことだが、港の倉庫で、彼の死体が発見された。その倉庫からカムジン・カラブランが出てきたのを見た、という目撃証言があんたのだ。我々は、彼をその容疑で追跡している」
 イルフィは困惑する。
 カダミに対して好感を抱いていたわけではないし、彼の死そのものには気の毒にという、ごく普通の感想を抱いただけである。
 問題は、なぜカムジンが彼を殺さなければならないのか、ということであった。
 イルフィは、セリンの顔を見つめた。おそらく、カムジンとカダミの関係を尋ねたところで、答えてはくれないであろう。
「……話をつづけよう」
 セリンはいずまいを正す。
「それでは、カムジン・カラブランと、ソーマが失踪したときの状況を、説明してもらえないだろうか?」

   2

 尋問を終えるとセリンはイルフィを独房へもどし、自分はブリッジへとむかった。部屋の外で待機していたオルダス少尉が、彼女の後ろから影のようにつき従う。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす