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竜王号の冒険

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「よく判らないんだけど、……なんかぼく、ずっとこの船に乗っていたような、そんな気がするんだ。おねえちゃんとも、ずっと以前から知り合いだったような気がするし」
 ソーマも同じことを思っていたのか……イルフィは、みょうな照れくささを覚えて、顔を上気させた。
「……どうしたの?」
「う、うん、だいじょうぶ、なんでもないの」
「リューガさんもリコさんも優しいし、ダグーのにいちゃんは面白いし、サバンスさんのご飯は美味しいし……ずっと、この船にいたいなあ」
 ソーマは、どこか夢見るような表情を浮かべる。そう言われてしまうと、イルフィはますます本当のことをソーマに話しづらくなってしまう。
「……ただ、あの人は苦手だな」
「あの人?」
「うん、銀色の髪の人」
「……カラブランさんのことね」
「あの人、なんかみんなとは違う……こう、心が見えないっていうのか、とにかく変な感じなんだ」
「ふぅん……ソーマ君はそんな風に感じているんだ」
 たしかに、カムジンにはどこか得体の知れないところがある。一日に数度、ブリッジに顔を見せる以外は自室に閉じこもったままで何かやっているようだし、愛想よく話してはいても、以外に自分自身のことについては話そうとはしない。
 何かを隠しているような気がする……イルフィ自身、彼に対して確かに疑問を抱いていたのである。
「!?」
 それまで、穏やかだったリューガの表情がにわかに険しくなった。
 立ち上がり、何かの気配を探るように、周囲を見回す。張りつめた緊張感が、イルフィにも伝わってきた。
「ソーマ君……どうしたの?」
「………………っ!?」
「ソーマ君、ソーマ君てば!?」
「……聞こえる」
「えっ!? なにが聞こえるっていうの!?」
「声だ……たくさんの……声……」
 あらぬ方を見つめたまま、ソーマはうつろな声で応える。
 イルフィは耳をすましてみるが、彼女に聞こえるのは竜核機関の低いうなりと、壁越しに聞こえる嵐の、くぐもった音だけだ。
 突然、ソーマが何かに弾かれたように振り向く。
「な、なに!?」
「……来る」
「来る?」
「何かが、近づいて来ている……すぐそこに……怒りに満ちた……」
 ソーマは食堂を飛び出すと、右舷側に面した丸窓にすがりつき、外を凝視する。イルフィは隣の窓から外を見るが、さきほど見た光景と、何ら違いは見あたらなかった。
「何にもいないじゃない」
「聞こえるんだ!! 怒りと、恐れに満ちた声が……すぐそこに……」
 イルフィは半信半疑だったが、もういちど、窓の外に視線を向ける。
 ほんの一瞬、何かが暗雲を突き抜け姿を見せる。
 鋭くとがった、竜の角のようなモノ。
「……っ!?」
 イルフィが息を呑んだその瞬間、暗雲をかき分けるようにして、巨大な竜が姿を現した。頭から尾の先までの長さが『竜王』とほぼ同じくらいある、大物だ。
 全身がどす黒くくすんでいるために、一見形を持たないうごめく影のようだが、雷光によって、そのまがまがしい全身像が露わになる。
 それは、漆黒の鱗をまとった、二つの頭を持つ邪竜だった。
 けたたましい警報が鳴り響き、サバンスの叫ぶ声が伝声管から聞こえた。
『竜だぁッ!! 竜がでましたぞぉッ!!』
(うそ……!?)
 イルフィはまじまじとソーマの横顔を見つめる。
(彼……竜の声を聞いたっていうの? まさか、『竜読み』……!?)
 ごくまれに、常人には聞こえない竜の『声』を聞き取り、その心を読みとる能力を持つ者が現れるという。狩猟船乗りはその能力を持つ者を『竜読み』と呼び、古くから敬いの対象としてきたのである。
「ソーマ君、一緒に来て!!」
「……!?」
「いいから、早く!!」
 イルフィはソーマの手を取ると、脱兎の勢いで甲板へと走った。彼女の突然の行動に状況を把握できないソーマは、こけつまろびつ、その後に続いた。

   3

 ブリッジには、すでにリューガとカムジンの姿があった。
 シューガは操船をしながら伝声管で船内各所に指示を発し、カムジンはと言えば、右舷側の窓越しに単眼鏡で竜をながめながら、『はぁ〜』だの『ほぉ〜』だのと、しきりに感嘆の声をあげている。
 イルフィがブリッジの入ってくるのを確認すると、シューガは警報装置のスイッチを切った。サイレンの音が消え去り、一瞬の静寂を感じさせるが、すぐに耳なじんだ風と竜核機関のうなりが戻ってくる。
「リューガ、状況は?」
「全員、配置完了。ダグーとリコは、ワイヤーフック台で待機している」
「小型艇は出せない?」
「この天候じゃ無理だ。あんな大物相手に不利だが、本船だけで仕掛けるしかない」
 排水量の大きい狩猟船はともかく、このクラスの狩猟船の場合、竜との力比べでは馬力不足で不利になることの方が多い。そのため、小回りの利く小型艇との連携で竜を牽制しながら猟を行うのが基本となる。
「まあ、そう心配することもないでしょう」
 相変わらず単眼鏡をのぞきながら、カムジンが緊迫感のない口調で言った。
「この『竜王』の竜核機関なら、そうそうパワー負けすることはないはずですよ」
「ずいぶん気楽に言ってくれますね」
 リューガが横目でカムジンを見やりながら不愉快そうに答える。
「その竜がどんな能力を持っているかは、実際にやりあってみないことには判らないものですよ。やつらをあなどってたら、いくら命があってもたりない」
「そこは皆さんの腕の見せどころでしょう。期待してますよ」
 カムジンは楽しげな口調で言うと、片隅に設置されている補助席に腰を降ろした。
「実際の猟を見るのは初めてなんですよ。じっくり、見学させてもらいます」
「いい気なもんだ……」
 リューガは口の中でそう毒づくと、視線を正面へと戻す。
「そう心配しなくても、案外、上手くやれるかもしれないよ」
「おまえまで、何をのんきなこと言ってるんだよ」
  イルフィは、船長席に腰を降ろすと、戸口の側に立ったままのソーマを手招きした。
「ソーマ君、まだあの声は聞こえる?」
「うん、聞こえる……ひどく緊張して、警戒している。この船が危険なものかどうか、見定めようとしているみたいだ」
「……竜の『声』が聞こえる!?」
 サバンンスは驚きの表情を浮かべて振り返った。
「イルフィ、まさか、このボーズ……『竜読み』の能力が!?」
「どうやらそうみたい。あたしも驚いたけど」
 リューガはまじまじとリューガの顔を見つめる。
「まさか、竜読みが、本当に……?」
「彼がなんで、あの船に乗せられていたのか、判ったような気がするの」
「……なるほど。ギルドはこいつの能力のことを知って、利用しようとしていた、ってことか」
「うん、多分ね」
「へぇ、あなた、『竜読み』なんですか?」
 二人の会話を聞きつけたカムジンは、つかつかとソーマに歩み寄る。ためつすがめつしながら彼の全身をねめまわし、感嘆の声を上げた。
「すばらしい! 本物の竜に、本物の『竜読み』!! いやあ、あなた方にこの仕事を依頼して、正解でしたよ、ほんとに」
 ソーマのことはともかく、竜なら他の狩猟船に乗っていても見ることはできるだろうに……大げさに喜ぶカムジンを後目に、イルフィはため息をついた。どうにも彼がいると、調子が狂う。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす