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竜王号の冒険

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『オルダス少尉から緊急連絡が入っています。ブリッジに上がっていただけますか?』
「わかった……すぐいこう」
 サイドデスクの上に置かれた水差しからグラスに水を注ぎ、一口で飲み干す。悪夢に高ぶっていた気持ちをようやく抑えると、彼女は軍服に着替え、ブリッジへと向かった。

 作戦行動時には二十名以上の乗組員がつめることになる『アジ・ダカーハ』のブリッジだが、夜間の今は当直担当の士官が数名、任務に当たっているに過ぎない。差し渡し十五メートル以上はあろうかという長方形をなす空間は、夜間用照明の薄暗い光に満たされ、必要以上に広く感じられる。
 セリンが指揮官席に腰を降ろすと、通信士がすかさず回線をまわす。コンソール上の通話ランプが点灯するのを確認してから、インカムをかぶり、通信に応える。
「なにか?」
『オルダス少尉です。夜分に失礼いたします』
「かまわない。用件は?」
『はい。実は、ホーソン支局長が、殺害されました』
「なんだって?」
 オルダス少尉は事務的な口調で、事情を説明した。
 『アジ・ダカーハ』がケアズを立ったのと前後して、彼は姿を消したという。もっとも、彼が執務中に無断で外出するのは珍しいことではなかったので、ギルドの局員も気にかけることはなかったのだが。
 しかし、夕刻になっても彼が戻らないため、ようやく不審に思った局員がギルド軍へ通報、捜索の結果、倉庫街の一角の空き倉庫の中で、彼の死体が発見されたのだった。
『前頭部に銃創……現場に残された血痕などから、ホーソンはこの倉庫に連れこまれた上で射殺されたものに間違いないと思われます』
「目撃証言はないのか?」
『近所の住民が、倉庫から出てくる不審な男を目撃しています。長身で、銀色の長髪、黒衣と色眼鏡をつけた男だったそうです』
「長身に銀髪だって……!?」
『それともう一つ、例の特務船に、接触したという狩猟船からギルドに報告が入ったそうです』
「なに? 確かにあの特務船だったのか?」
『はい。登録船名は『竜王』。船長はイルフィ・ランディスという十八歳の女性だとのことです。他に、出資者が搭乗しているとか』
「その出資者の身元は?」
『カムジン・カラブラン。西エアシーズ、グーデル港にある造船所の経営者です。提出された書類から身元が判明しており、書類にも偽造の疑いなど、不審な点はありません。ただ……』
「なんだ?」
『手続きを行ったギルドの係員の証言が確かだとすれば、そのカムジンという男、ホーソンの死体が見つかった倉庫で目撃された人物と、人相が一致しているんですよ』
「………………!?」
 セリンは直感した。間違いない、テルファスが動いている。彼なら、別の人物と入れ替わることなど造作もなくできることであろう。カムジン・カラブランとは、テルファス・ファインに違いあるまい。
 しかし、そのテルファスが一体なぜ、『ドラゴンフライ』のクルーと接触を図ったのであろう? これまで入手している情報が確かなら、彼は特務船から特異体の持ち出しに成功しているはずだが……?
「あっ……!!」
『……いかがしました、少佐?』
 セリンは自分が重大なことを見落としていたことに気づいた。
 特異体の持つ異名から、彼女はそれが竜の姿を持つとばかり考えていたが、もしそうでなかったとしたら……。
 そう、竜は『環境や外部の刺激に反応し、自在にその姿を変える』のだ。
 ホーソンの報告に記載されていたことが確かなら、特異体はおそらく……!?
「オルダス、そのカムジンという男の狩猟船はその後どこへ向かったか判るか?」
『通信記録から推測する限り、間違いなく竜の海へ向かったものと……今は『風凪の月』ですから』
「竜の海……」
 セリンは表情を曇らせるが、暗いブリッジの中でそのことに気づく者はいなかった。
 テルファスの目的が彼女の予想した通りであるなら、彼がそこに向かうのは必然であると言える。それは十分判っていることだが、できれば近づきたくはない場所である。
 なぜなら、そこは……。
 セリンは、意志の力で感情を押さえつけた。感情にひたるのは、すべてが終わってからでも遅くはない。今はテルファスに追いつくために、できる限りのことをしなければならない。
「オルダス。『アジ・ダカーハ』はこれより竜の海に向かう。ケアズ駐留の武装艦を全艦発進させ、竜の海へ向かわせろ。当艦との合流地点は座標域西89南24とする。大至急、手配しろ」
『全艦発進ですか!?』
「そうだ。もしかすると……いや、確実に我々は強大な敵と、対峙することになる」
 一拍おいて、セリンは渦巻く感情と共に、言葉を吐き出した。
「……神竜という強大な敵と、な」

   2

「竜の海に竜が多いのは、通常地上の遺跡群に、その身を潜めることのできる場所が多いためと言われています。まあ、いわば魚礁のようなものが多いからと思われているわけですが」
 『竜王』の食堂に主だったクルーを集めて行われたブリーフィングで、カムジンは『怒りの暗礁』へ向かう理由を説明した。
「しかし、僕の研究によればそれが理由のすべてではありません。もっと根本的な理由があると考えています」
「根本的な、理由?」
 イルフィが聞き返す。
「竜がどのような方法で繁殖しているのか……それはまったくの謎とされていますよね、ランディス艦長」
 イルフィは無言でうなずき返す。いまさら確認されるまでもなく、竜の繁殖方法が謎であるということは、狩猟船乗りなら誰もが知っている常識だ。
「通常の動物のように、産卵や出産という方法で子孫を増やしているわけでないことは、誰もが知るところです。だが、竜の数は減ることがない……なぜなら」
 カムジンは意味ありげに一呼吸おいてから、言葉を続けた。
「……なぜなら、竜はこの空域の地上にある遺跡で、作り出されているからなんです」
「遺跡で、作り出される!?」
 あまりに途方もないカムジンの仮説に、リューガは呆れ果てたような声を発した。他のクルーたちは、あっけにとられた表情でカムジンの顔を見つめる。
「んなバカな話、聞いたことがないぜ。作り出されているって、竜がまるで椅子やテーブルみたいに工房で作られてるっていうのか?」
「まあ、椅子やテーブルとはワケが違いますけどね」
 カムジンはクルーたちの顔を見回すと、テーブルのかたわらに置いてある大きな巻物を開いてみせる。
「これは、北エアシーズにある古代人の遺跡に残っていた石碑から複写した絵図です」
「……あっ!?」
 絵図の真ん中に描かれたモノをみて、イルフィは思わず声を上げた。
 複雑な形状の台座の上に鎮座する、卵のようなもの。その頭の部分に開いた穴からは、竜と思われる生き物が、顔をのぞかせている。
 それは、あの遭難船の中で見た、正体不明の機械にそっくりだったのだ。
「どうかしましたか、ランディス船長?」
「これって、あの……い、いえ、なんでもないです」
 イルフィは遭難船との接触を報告したギルド本部の担当者から、遭難船の中で見聞きしたことについては、たとえ乗組員であっても他言無用と言われていたことを思い出して、あわてて言葉を飲み込んだ。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす