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竜王号の冒険

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 船体が激しく震動し、イルフィは思わずその場に尻餅をついてしまう。
『船長、聞こえますか、船長!』
 インカムからリコの緊迫した声が聞こえる。イルフィは立ち上がりながらその呼びかけに応えた。
「こちらイルフィ、聞こえてるわよ、リコ」
『無事でしたか、船長……よかった』
「何か起きたの?」
『今、そちらの船の船尾で爆発が起きるのが見えたんです。それで心配になって……』
「……しまった!!」
 リューガが叫び声をあげた。
「機関部で誘爆が起きたのかもしれない……急いで脱出しよう!!」

   4

 イルフィは急いで倉庫を出ると、竜王へと急いだ。ダグーと、少年をかついだリューガがその後に続く。
 階段を駆け上がり、上甲板への通路に出る。だが、すでに通路には火の手が回っていた。炎の壁が行く手を阻み、肺を焼きそうな熱風が吹きつける。
「駄目よ、この先は進めないわ!」
「他のルートを探そう。こっちだ!」
 リューガに誘導され、一行は炎を避けながら甲板に出るルートを探す。だが、上甲板に出られる道筋は、すでに完全にふさがれてしまっていた。
 四方を炎に囲まれ、一行は進退窮まってしまう。
 立ちこめる灼熱と化した室温に耐えかね、ダグーが後甲板に出るハッチを開けようとした。
「やめろ、ダグー!! 
「暑くて死にそうっす、せめて外に出ましょうよ!」
「バカヤロ! うかつに船内に新鮮な空気を入れたら、ますます火の勢いが強くなるだけだってことが判らないのか!」
「といったって、こうなったら他にどうしようもないじゃないっすか!!」
「落ち着いて、ダグー。あたしに考えがあるの」
「どうしようってんです、船長?」
 イルフィは周囲を見わたし、炎の状況を確認する。彼らのすぐそばに、上の階へつながる階段があって、そこにはまだ火の手が回っていなかった。
「リューガ、あの階段からブリッジまでいけるかな?」
「火災は機関部付近から回ってるみたいだから、まだ船体上部には火の手がまわってないだろうな……しかし、どうしようってんだ? ブリッジなんかに行っても、かえって逃げ場がなくなるだけだぜ」
「竜王からブリッジにワイヤーフックを打ち込んでもらうの」
「……まさか、そのワイヤーを伝って脱出しようっていうのか!?」
「他に方法はある?」
「でも、やっぱ危険っすよ!」
「これ以上、もたもたしている時間はないわよ」
「ううむ……」
 突然、リューガがゆかいそうに大声を上げて笑った。
「親方がここにいたら、きっと同じことを考えただろうな」
「ふ、副長!」
「なにをビビってんだよ! 男なら腹くくれ」
 サバンスの大きな掌で背中をどんと叩かれ、ダグーは不承不承、うなずいた。
「……し、仕方ないっす。船長も副長もやる気なら、俺もついていくっす」
 イルフィはうなずくと、インカムでリコに呼びかけた。
『はい、船長!』
「リコ、ワイヤーフックをスタンバイしといて」
『え? ワイヤーフックですか?』
「そう。後でまた連絡するから、よろしくね」
『わ、判りました!』
「……さあ、火の手が船全体に回る前に、急ぎましょ!」
 三人は階段を駆け上がると、ブリッジへと急いだ。

 リューガの予想通り、ブリッジには、まだ火の手が回ってはいなかった。
 さすがに大型船だけのことはあり、『ドラゴンフライ』のブリッジよりもよりもはるかに広さがあった。
 船長席に、コンソールに突っ伏し絶命している男の死体があった。
 身なりや年齢から、この船の船長であることは明らかである。他に、人影は見あたらない。
「他のブリッジ要員はどうしたのかな」
「逃げ出したのかもな。どっちみち、命が助かったとは思えないけど」
「結局、生存者はその子だけってことか……」
 イルフィはリューガが担いでいる少年を見上げる。
「まあ、一人だけでも助けられたのはよかったよね」
「まだ、助けられたかどうかは判らないぜ。俺たちだって、この船と運命を共にすることになるかもしれないんだからな」
「そうだったね。早く脱出しなけりゃ」
 イルフィは、ブリッジの左舷方向の窓に駆け寄り、竜王との位置関係を目測した。
「リコ、聞こえる?」
『はい、船長! ワイヤーフックの準備、できてます』
「この船のブリッジの左舷側の窓、そっちからも見えるわよね?」
『はい、見えます!』
「その、枠にはさまれた中央の窓に、ワイヤーフックを打ち込んで欲しいの」
『え? ブリッジに打ち込むんですか!?』
「説明してるヒマはないの。お願い、こっちが合図したらやってちょうだい!」
『判りました!』
 イルフィたちは一端ブリッジ外の通路に出る。彼女たちが昇ってきた階段から炎が吹き上げているのが見えた。もう、時間は残されていない。
「オーケー。リコ、やってちょうだい!」
『りょ、了解です!』
 一瞬の間をおいて、ガラスの砕ける音がブリッジの中から響いた。
 ワイヤーフックは、左舷側の窓を突き破り、上手い具合に床に突き刺さって固定されていた。リューガがワイヤーを引っ張り、強度を確認する。
「大丈夫、これなら大人の二、三人ぶら下がっても、抜けることはないだろう」
 イルフィはブリッジの壁面に備えつけられた非常用の手斧を取ると破れた窓枠に残ったガラスの破片を叩いて取り除いた。
「いいわ。二人とも、先に行ってちょうだい」
「船長を後に残すことはできませんよ。おい、ダグー!」
「は、はい!?」
「おまえ、先頭でいけ。その後をイルフィが、最後に俺が行く」
「お、俺が先頭っすか!?」
「ああ、後ろからいくイルフィに気をくばれ。もし何かあったら、死ぬ気で彼女を守るんだ」
「そ、そんな器用なこと、できないっすよ!」
 ダグーが抗議の言葉を続けようとしたその時、大きな爆音が鳴り響き、船体が大きく震動した。爆発性のある何かに引火したらしい。
「わわわっ!」
「ほら、時間がないんだ。さっさと行け!!」
「リコ? 今からワイヤーづたいに脱出するから、いつでも発進できるよう、準備お願いね」
『わ、判りました!』
 ダグーは窓から手をつきだし、ワイヤーを掴むと、そのまま窓枠に足をかけ、
「南無三!」
 というかけ声と共に、窓の外へ飛び出した。
「さあ、イルフィ、急げ」
 リューガにうながされ、イルフィは窓際に歩み寄る。
 冷たい外気が、彼女の頬を刺す。改めて見下ろすと、竜王の甲板までの距離と高さは相当あることに気付く。ワイヤーをゆっくりと下ってゆくダグーの姿が心許なく見えた。
 イルフィは両手で頬をぴしゃっと叩き、気合いを入れる。
 やろうと言い出したのは自分なのだ。ここで臆してどうする?
 イルフィは深呼吸すると、ワイヤーをつかみ、窓から身を乗り出す。窓枠に腰を降ろしてから両足をワイヤーに絡ませ、ゆっくりと渡り始めた。
 船内から見た限りでは嵐もほとんど凪いで、風も穏やかになっているように思えたが、実際こうしてみると、風のせいでかなりワイヤーが揺れていることが判る。おまけに貨物船と竜王の甲板の高低差で、想像以上に傾斜が激しい。イルフィは手足をすべらせないよう慎重を期してワイヤーを下ってゆく。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす