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竜王号の冒険

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 イルフィは思わず周囲を見わたす。言われてみれば確かに通路は普通の規格に比べて狭いような気がするし、船体の骨格を構成する鉄製の支柱はより頑丈にできているような気もする。もっとも、リューガの指摘があったからそう思えるだけのことで、実際、彼女にはまったく判断が付かなかった。
「嫌な予感がするな」
「嫌な、予感って……」
「偽装船てのは通常海賊の囮とかに使われるもんですが、こんな場所に出没する海賊がいるとは思えない」
 確かに好きこのんで竜の海近辺で獲物を探す海賊など、いるはずがない。彼らの獲物となるような船は、ほとんどこの空域にはいないのだ。
「にも関わらず、この船がここにいるってことは、おそらく何か特別の任務についていた可能性が高いと思うんだ」
「なるほど、人目をはばかるような理由があるから、こんな仮装した船を使ってたってわけっすね」
 納得いったと言わんばかりに、ダグーが大きくうなずいた。
 イルフィはしばらく腕組みをして考え込んでいたが、やがて疑念を吹っ切るように頭を二、三度激しく振った。
「推測してても仕方がないわ。とにかく、今は生存者の救出が優先のはずよ」
「確かにそうだな」
「あっ!」
 ダグーの発した叫び声に、イルフィは飛び上がった。
「ちょっと、いきなり大声出さないでよ」
「すんません、船長。人影が見えたような気がして、つい……」
「人影が?」
「ええ、その通路の先の階段を、誰かが下っていったように見えたんすけどね」
「……生存者かな? とにかく、行ってみようよ」

 階段を降りると、そこは一本の細い通路になっていた。
 薄暗い非常灯がともるその先は、まっすぐ倉庫へとつながっている。他に入れそうな通路や戸口は一切見あたらない。
 倉庫に面した扉は分厚く頑丈な鋼鉄製だったが、内側からまるで紙でも破いたように無惨に破壊されていた。
 扉に開いた穴は、大人一人が十分通れる大きさがある。穴の中は照明が点っていないのか、真っ暗で外からは様子がうかがえない。
「うわぁ、どうなってんだよ、こりゃあ」
 ダグーは扉の残骸をためつすがめつしながら、感嘆の声をあげる。
「内側から何かが飛び出していった、って感じね」
「しかし、こんなに頑丈な作りの扉、そうそう破れるもんじゃねえぜ」
「そうだ。そんなことできるのは、竜しかいないっすよ」
「まさか、生け捕りにした竜をここに閉じこめていたとか?」
「いくら竜が大小様々な姿をしてると言っても、こんなところに閉じこめられるほど小さな竜ってのは、見たことも聞いたこともないけどな」
「うーん……それにしても、一体何が起きたんだろう?」
 イルフィは穴から中をのぞき込む。リューガとダグーが慌てて彼女を引き戻した。
「船長、あぶないっすよ!」
「そうだぜ。中はどうなってるのか判らないんだから」
「こんなところで考え込んでたってしかたがないでしょ? 第一、階段からここまで、他に入れる場所もないんだし、ダグーが見かけた人は、きっとこの中に入ったのよ」
  リューガは、自分のポーチの中から、護身用の火薬式拳銃を取り出し、装弾を確認する。
「俺が先に入って安全をする。イルフィは俺が呼ぶまでここで待ってろ」
「そんな、ずるいよリューガ」
「おまえは船長だろうが? もしものことがあったら、船のことはどうすんだよ?」
「でも……」
「とにかく、ここで待ってろよ。ほら、ダグー、何をぼさっとしてる!? いくぞ!」
「えー、俺もっすか!?」
「当然だろう、何のためにここまで来たんだ?」
「俺、拳銃持ってないっすよ」
「四の五のぬかしてねえで、ついてくりゃいいんだよ」
 それでも渋るダグーの腕をつかみ、リューガは穴をくぐって倉庫の中に入る。半ば引きづられる形で、ダグーがその後に続いた。
「……リューガ、中の様子はどう?」
 一人取り残されたイルフィは急に不安を感じて、倉庫の中のリューガに呼びかけた。
 だが、回答はない。
「リューガ、どうしたの? ……聞こえないの?」
「そうせかすなよ。ちょっと待て、今……」
 倉庫の中で、何やらごそごそと探っているような音が聞こえてくる。と、穴から暖かい色の光がぱぁっと洩れ出した。どうやら、室内灯のスイッチを探していたらしい。
 少しの間をおいて、リューガの緊張した声が聞こえた。
「……イルフィ、こっちに来てみろ!」
「なに、なにがあったの?」
「いいから、早くこい!」
「なによ、待たせたり来いといったり、まったく気まぐれなんだから」
 そうぶつぶついいながらも、イルフィは室内へ入っていった。
 倉庫は相当な広さがあったが、ほとんど貨物は置かれていなかった。ただ、その片隅になにやら大型の機械が置かれており、リューガとダグーがぼう然とそれを見上げていた。
 イルフィは駆け寄ると、自分もその装置を見上げる。
 見たところ、それは金属製の大きな卵形の容器に見えた。複雑な装置が組み込まれた台座の上に、光沢を放つ卵のような本体が取り付けられている。高さは台座部分を含めて三メートルほどもあろうか。本体部分は大人一人が十分入れそうな大きさがあった。
 イルフィは台座をよじ登って、本体上部を調べる。
 本体の最上部に、小さなハッチが据えつけられている。ハンドルをつかんで持ち上げてみると、ハッチは容易に開いた。どうやら密閉されていなかったらしい。
 容器の中から、なま暖かく、そしてかすかに生臭い空気が吹き出す。のぞき込むとなにやら液体が満ちているのが見えた。ハッチの縁に付着した液体にさわってみると、ぬるりと、気持ちの悪い感触がした。
 台座から飛び降りたイルフィにリューガが尋ねた。
「何か、判ったか?」
 イルフィはハンカチで指先をぬぐいながら、説明した。
「見た目だけじゃなくて、中身も本当に卵みたいな感じ。ほんとに、一体なんなんだろう、これ……」
「巨大な、鋼鉄製の卵か……」
 その時、どこからか、かすかなうめき声が聞こえた。
「……ひっ!?」
 ダグーが小さな悲鳴を上げる。
「ま、まさかそのでかい卵の中に……?」
「いや、違うな。この機械の裏からだ」
 リューガは拳銃の撃鉄を起こすと、用心しながら機械の裏手に回り込む。
 イルフィとダグーは固唾を飲んで様子を見守った。
「……何かいた?」
「人だ……まだ生きてるみたいだ」
 サバンスは倒れていた人物を抱き上げると、イルフィたちの元に戻った。
 それは見たところ、十二〜三歳くらいの少年だった。灰色の粗末な船員服を身につけている。
 光沢のある金色の髪の毛は腰まで届きそうな長さがあり、細面のくっきりした顔立ちと相まって、一見少女のような印象を見る者に与える。
 イルフィは少年の左の耳たぶに、小さな金属製のプレートが打ち込まれていることに気付いた。一見、ピアスのようにも見えるが、よくみると数桁の数字と見慣れない記号が彫り込まれており、装飾品というよりはまるで商品管理用のタグに見える。
「この船の乗組員かな……?」
 リューガの例を出すまでもなく、子供が見習い水夫として船に乗り込み働いていることは、決して珍しいことではない。
「服装からすると、そうだと思うが……」
 リューガの語尾は、くぐもった爆発音でかき消された。
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす