小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

竜王号の冒険

INDEX|12ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 

 テグの真似など、誰にもできることではない。たとえ彼の血を引くイルフィであっても。だから身の程をわきまえろ……リューガは暗にそう言おうとしているのである。
 しかし、怒りはまったく感じなかった。そう、確かに誰もがテグ・ランディスになれるわけではないのだ。
「ありがとう、リューガ……あたしは、あたしのやり方を探してみるよ。父さんの真似じゃなくて、自分の方法を。みんなの信頼に、答えるためにもね」
「おう、その意気だ」
 イルフィはリューガの顔を見つめ、うなずき返した。

「船長、まもなく救難信号の発信源に到着いたします」
 サバンスが二人の会話に割って入った。
「目標までの距離、一五〇〇……そろそろ目視できるはずです」
「信号に変化は?」
「ございません。相変わらず公式の救難信号を、十五秒おきにくり返し発信し続けています」
 イルフィは身を乗り出して前方を注視する。舳先からかなり先に、大型の船影がおぼろげに見えている。
 ウエストポーチから単眼鏡を取り出し、目に当てる。ピントを合わせると、それが中型の貨物船であることが判った。
 船体のあちらこちらから煙を噴き上げているのが判る。くすぶり続ける炎の紅い色が、煙で見え隠れしていた。想像していたよりも、はるかに無惨な有様である。
「ひどい……」
「見たところ、ギルド本部直属の貨物船のようですな」
 リューガがつぶやいた。
「ずいぶん手ひどくやられている……おそらく、竜に襲われたんでしょうけど」
「しかし、なんで貨物船が竜の海なんかに?」
 狩猟船は通常、航行用の竜核機関の他に、船体の安定を保つための補助的な竜核機関を搭載している。竜と戦うために船の安定性を強化は絶対不可欠なことなのだが、、この構造によって、他の船種にはない安定性を実現しているのである。
 しかし、一般の船舶は竜核機関を一機しか搭載していないものが多い。
 これはひとえにコストの問題なのだが、結果として狩猟船よりも安定性にかける一般の船舶は、竜の海や、悪天候化の空域を避けて航行するのが慣例となっているのである。それに、竜の海近辺は竜の出現率も高く危険でもある。
「竜の海をつっきらなきゃいかん、理由でもあったのか……」
「ねえ、リューガ。あの船に接舷できるかな?」
「危険だ、やめといた方がいい」
「万が一爆発でもしたら、こちらが被害を受けることになるから……と、そう言いたいんでしょ?」
「その通りだ」
「やっぱりね」
 イルフィは向き直り、炎上する貨物船を見つめながら言葉を続けた。
「けど、救難信号が出ているってことは、あの船に生存者が残っている可能性があるってことでしょ? いつ爆発するかも判らない状態で、小型艇でのピストン輸送なんて、悠長なことしてられないじゃない」
「……そうだな」
 リューガはあきらめたようにうなずいた。確かに彼女の言うことはもっともなことであったし、なにより彼は、言い出したら聞かない彼女の性格を熟知していたのである。
「サバンス、遭難船と回線を開ける?」
「先ほどから呼び出しておるのですが、応答がございません」
「……生存者はいないのかな?」
「判断いたしかねますな。先方の無線機が壊れている可能性も考えられますし」
「実際に乗り込んで確認する以外、方法はないさ」
 リューガは伝声管を開くと、クルーに呼びかけた。
「これから本船は、遭難船の生存者確認、及び救助のため、該当船舶への接舷を行う。ダグーは前甲板で待機。リコはブリッジに上がってくれ。他の者は現状を維持」
 伝声管を閉じると、振り返って言った。
「俺も一緒に行くぞ。おまえに任せといたら、危なくて仕方ない」
「あら、あたしがあの船に乗り込もうと思ってること、どうして判ったの?」
「そりゃ、おまえの顔見りゃ何考えてるか、一発で判るさ」
「参ったな。リューガに隠し事はできないね」
 イルフィは照れ隠しに頭をかいてみせる。
「当たり前だ。子供のころからのつきあいだぜ」
「あたしは、リューガの顔見ても、何を考えてるかわからないよ?」
「それはおまえが鈍感なだけだ」
「あ、いったな」
 リューガは声を上げて笑ったが、すぐさま真顔に戻る。
「よし……そろそろ船を接舷させるぞ。イルフィは前甲板に降りて、待機しててくれ」
「……判った」
 再び、遭難船に視線を転じ、イルフィは生存者がいてくれることを、心から祈った。

   3

 数分後、『竜王』は遭難船の左舷に接舷した。
 間近で見ると、遭難船の損傷はかなりひどいことが判った。船体には竜の爪で引き裂かれたと思われる無数の傷が付いており、前甲板はブレスによって完全に焼失していた。
「こりゃあ、ひでえ……」
 イルフィのかたわらで遭難船を見上げたダグーが、その惨状に思わず声を上げる。
 南エアシーズ辺境の少数部族の血を引く偉丈夫の銛打ちで、スキンヘッドに施したタトゥーが見る者に威圧感を与える。しかし、見た目とは裏腹に至って気さくな人柄で、ムードメーカーを自ら買って出ることも多い。
「これで生きてる奴がいたら、よっぽど幸運な奴っすよ、船長」
「………………」
 あるいは、リューガの主張の方が正しかったのかも知れない……イルフィは今になって自分の決断に迷いを覚えていた。
 その肩を、背後から誰かが叩いた。振り向くと、リューガが彼女を見下ろしている。
「ここまで来てしまったんだ。ためらっても始まらないぞ」
「うん……そうだね」
 イルフィはインカムのスイッチを入れ、ブリッジに待機しているリコに回線をつないだ。
「それじゃあ、リコ、船のことはお願い。万一の時に備えて、いつでも離脱できるようスタンバイしておいてね」
『大丈夫です、船長。ダイスン副長も、ダグーも、気をつけて』
「おう、まかせとけってんだ!」
「じゃあ、行きましょうか、船長」
 二人に目くばせすると、イルフィはタラップを渡り、遭難船へと乗り込んだ。
 
 遭難船の中は、すえたような不快なにおいが充満していた。
 通路と言わず船室と言わず、至る所に乗組員たちが死体となって倒れていた。あまりの惨状にイルフィは思わず顔を背ける。
「死体が綺麗すぎる。一瞬のうちに、死に至ったらしい……おそらく、竜の瘴気にやられたんだろうな」
 死体の状態を調べながらリューガが言った。
「もしそうだとすれば、生存者が残っている可能性はまず考えられないが」
「聞いたことはあったけど、実際にそんな竜がいるなんて……」
「そう滅多にいてもらっちゃ困るぜ。できれば一生、そんな竜にはお目にかかりたくないもんだな」
 リューガはおもむろに立ち上がると、周囲を見回す。
「それにしても、これはやはり……」
「どうしたの、リューガ?」
「……この船、普通の貨物船じゃあ、なさそうだぞ」
「普通じゃないって、どういうことよ?」
「上手く偽装してはいるが、この船、おそらくギルド軍の武装船だ」
「ギルド軍の……!?」
作品名:竜王号の冒険 作家名:かにす