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Lady go !― 幸せがクルマで♪ ―

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 その夜は怖くって とても眠れなかった。

 いずれはあのハコに入れられるんだって考えたら、もうそれだけで悲しくて涙がとまらなくなった。どうしてワタシはここにいるの? 誰かワタシを連れ出して、、、パパ…。悲しくて苦しくて、夜なのに歌を唄うことにしたの。パパが大きな声で唄っていたあの歌を。

 すると、どこからか現れた動物が泣きべそのワタシに話しかけてきたの。その小さな動物はとても生意気だったし、だけどもその生意気な動物は体のあちこちが油で汚れていて、とても可哀そうにも見えたの。

『そんなに悲しそうな顔をするなよ

〈誰だって悲しい時には泣く権利があるはずよ

『でも泣いたって何も変わらないぜ
  それよりキミの話を聞かせてくれよ

〈悪いけど 今はそんな気分じゃないの
  アナタはそんなに汚れてるのに 悲しくはないの?

 ワタシは悲しみの余り、つい失礼なこと言ってしまった事を後悔したの。だって、そんなに汚い姿になってしまって悲しくない動物なんて、どこにもいやしないんだから。ワタシのひどい言葉に生意気な動物はメソメソ泣き始めてしまうのかと思ったけれど、それはぜんぜん違ったわ。その生意気な動物は『こんなのはヘッチャラだよ』って言って何ともないふうで、またワタシに質問をしてきたわ。だけれどもワタシはその夜はとても自分から喋る気にはなれなかったし、でも、一人になるのも寂しかったので、その生意気な動物に喋らせることにしたのよ。

〈アナタの話を聞かせてちょうだい

『オイラの話?

〈そうよ。アナタの名前はなんていうの?

『名前だって? オイラには名前なんてものはないよ

〈名前がないって おかしいじゃない? おかあさんは?

『じぁ、キミの名前を教えてくれよ

〈 ゆ53−87 です、はじめまして♪

『それは名前じゃないよ

〈・・・そう言われれば、、、そうね…

 じゃぁ、ワタシの名前はなんなのよ?
  あれ、、ワタシの名前って 何だろう?

  わあぁぁぁぁぁ! ワ、ワタシには名前がないわ!!

『キミって変わってるね…
 (クルマに名前なんてあるわけないだろぉ)

 名前がないもの同士、その夜はお喋りして寂しさをまぎらわしたの。
 生意気な動物は、船に乗ってこの国に運ばれてしまったんだって。それだってずいぶんと可哀そうだなって感じたんだけれど、生意気な動物はケロッとしてる。
 生意気な動物が言うには「どこにいたってオイラはオイラさ」だって。確かにそうね、名前がなくたって、どんな場所にいたってワタシはワタシ、そう思うもん。

 それからというもの、夜になると生意気な動物がワタシのボンネットにあらわれて、いろんな話を交わしたわ。
 ワタシは<パパ>のことや<ママ>のこと、そして<奇麗な娘>の悪口を話すのが得意だった。
 その生意気な動物はというとね、<貨物船に乗ってしまった日の話>や<舟鼠との戦い>、<海原での大嵐>のこと、そんなこれまでの冒険の話をよく聞かせてくれたわね。その話の中でとても興味をもったのは、<遠い国>の話だったかな。遠い国はね、ここなんかよりもずっと道が広くって、ずっと空気がおいしくって、ずっと緑がいっぱいなんだよって教えてくれた。そして、その話をするときの生意気な動物は、ずぅ〜と遠くの星を眺めていたわ。

『悪いことがあれば 次は必ず良いことが訪れるもんさ
 良いことばかりだけが続くんなら そんなのはきっとツマラナイだろうし
 もしも悪いことばかり続いたなら 明日には些細な出来事で幸せを感じられる
 つまりは幸せなんていうものはさ 心の中にあるんじゃないかって思うんだ

 生意気な動物はお喋りだから、結局は一人で話してるんだけどもね。そしてお喋りの最後にはいつも決まってこんな事を言ってくれたの。
 でもね、ワタシはこんなところに連れてこられてしまってガッカリしているけれど、明日には良いことが起こるなんてとても思えないの。幸せが心の中にあるんなら、ワタシは今も幸せってことじゃない。そんなのおかしい。だって、いつかはきっと、あのハコに入れられてしまうんだから。
 最後くらいは なにかこう小さくてもいいから良い出来事がおこらないかな。

 叶うなら 遠い空の下でグングン走ってみたいな。