北国ロマンス
山の夕暮れは早い、すでに日が落ちたようで外が青白くなっていた。ゲレンデではカクテル光線が綺麗にコースを浮かび上がらせ白い滑り台のようだった。まだ何人かのボーダーが滑っていた。
敦子は部屋に帰りアイシングをした。ホテルからシップ薬も貰った。
「さあ、町に繰り出すぞ。これからが俺の得意分野だ。酒だ酒だ」
「行けるかな~足痛いんだけど・・・」
「大丈夫、今日は全部俺がおぶってやる。まかせろ。さぁ行こう!」
克己は痛々しい敦子に着替えるように催促した。
「もう、スキーより酒が好きなのね」敦子が言った。
「なんだそれはしゃれか・・・スキーよりすきー、なんちゃって」
「くそ親父っ!」
部屋を出るときから1階のタクシー乗り場まで、人目をはばからず克己は敦子をおぶって行った。
「カッちゃん・・・ちょっと恥ずかしい・・・」
「何言ってんだ。こけた時の方がまだ恥ずかしかったぞ」
二人はタクシーに乗り越後湯沢の町に繰り出した。温泉町でもあるこの町では、道路から噴水のようにお湯を流し、雪が積もらないように温かい湯で溶かしていた。氷結防止なのだろう。
運転手はお薦めの居酒屋の前に車を止めた。
タクシーからお店の中まで敦子を克己はおんぶした。
壁には地酒の名前札がずらりとぶら下がっていた。有名どころの酒がカウンターの上にも並んでいる。
「うひょ~、俺にはゲレンデよりこっちが好きだ。やった~」
「カッちゃん、飲みすぎないでね」
「大丈夫!飲んでも今日はバッチリやるからさ」
「そうじゃなくて、おぶれなくなるんじゃない?」
「・・・大丈夫だろ・・店の人もいるし」
二人で店の人を見た。禿げたいやらしそうな中年の親父がいた。二人で顔を見合わせ笑った。
「やだ~、あの人におんぶされるの・・・」
「くくくっくっ・・・」克己は下を向いて笑った。