北国ロマンス
地酒も満足だが料理も珍しかった。
「舞茸の良いのがあるよ」と言われ注文した。
舞茸を丸ごと一房、天婦羅にしたものが運ばれてきた。どか~んという感じだ。
「どうやって食べるんですか」と野球のグローブのようなものを目の前にして聞いてみた。
「そのまま箸でさくさくっと食べれるから」
克己と敦子は舞茸に箸を入れてみる。簡単に分けることが出来た。
その舞茸の味はうまかった。見た目豪快ながら、味は繊細。酒の肴にぴったりだった。
野沢菜もおいしい。のっぺい汁もすすめられた。そして蕎麦だ。たまには違う町で食べるのもいい。
土地が育んできたものは、それぞれ特色がある。特に山深い田舎に行けば知らないものがたくさんある。
「ああ、食べた。まだ飲み足りない。敦子、居酒屋のはしごだ」
「ええ、まだ飲むの?」二人して1升は飲んでいた。
克己は敦子をおんぶして、次の居酒屋の暖簾をくぐった。
そしてまた、地酒を飲む。
どうも呑み出したらはしごする癖を持っている克己はまた次の店に行こうと言い出した。
そうやって4件ははしごしただろうか。おんぶする克己の足元が危ない。さっきはおんぶしたまま道の両脇に積もった雪の中に倒れこんでしまった。冗談なのか本気なのか。冷たい雪にまみれて酔った二人は大笑いした。最後の4件目の店からタクシーを呼びホテルに帰ることにした。
ホテルの部屋からは、灯りに照らされたゲレンデがまだ見えていた。
おんぶに疲れた克己はベッドに倒れこんだ。
「カッちゃん・・今日はありがとね・・たのしかった。まだ大丈夫?」
「ウウッ・・大丈夫・・大丈夫」ベッドにうつ伏せで寝ている。
「カッちゃんお風呂はいる?マッサージしてあげようか?」
「ウウッ・・大丈夫・・大丈夫」相当飲んでいる。
「カッちゃん寝たらダメだよ。がんばってするって言ったじゃない」
「ウウッ・・大丈夫・・ウウッ・・・」
「カッちゃん・・・カッちゃん・・」揺さぶりながら敦子も克己の横で寝てしまった。
外は白い雪が舞っている。多分また明日も二人は飲み疲れて寝てしまうんだろう。
敦子の書いたラブレターは今夜は読まれぬまま、バッグの中で眠ることになったけど、
「好きだよ」の文字はベッドの二人の上に雪のように舞い降りていた。
(完)