北国ロマンス
それから新幹線に乗り、越後湯沢に着いたのは午後2時くらいだった。
真っ白なゲレンデがあちこちに見える。荷物はカート1台にまとめていた。スキー板は先に宅配してもらっていたので行動は身軽だった。 新幹線から降り湯沢駅構内を歩いていると、地酒紹介のイベントがあっていた。「無料で試飲出来ます」張り紙がはってある。
克己はさっそく足を止めぐいぐいやっている。
「これもいける。これもうまい」誰も遠慮して少ししか飲まないのに、うわばみのような克己は無料の自動販売機のように地酒を飲みまわった。
「かっちゃん、かっちゃん・・ホテルはすぐそこだよ。そこで飲めばいいじゃん」
「すげ~な、これ全部ただだぜ。信じられね~。新潟は酒飲みの天国だ」
「いいから、みんな見てるよ。早く行こ」
敦子は克己のダウンのすそを引っ張り、歩くように促した。
仕方ないように舌打ちした克己はしぶしぶ敦子の後についていった。
駅前にはホテルからの送迎バスが待っていた。予約名を告げて乗り込むとバスは、道の両脇に高く積もった雪道をゆっくりと動き出す。
「凄いなぁ~よく積もってるなぁ~」天気が曇りのせいもあるが一面白い灰色の世界だった。町から少しはなれたところにあるホテルは、20数階建ての田舎町には似合わない近代ホテルだった。
越後湯沢なら苗場プリンスというが、こっちの方が静かでいいと知人が勧めてきたので決めた。
ゲレンデもホテルの玄関先から続いている。大型のリゾートホテルに似つかわしいフロントだった。
「いらっしゃいませ。確認ですがお食事の方は必要ないとのことでしたね」
「ええ、夜も朝もいりません」
ホテルの食事はどこか画一的だ。できれば町の居酒屋や屋台で酒をかっ食らいたい。
暖簾の向こうの越後弁が飛び交う居酒屋。
地酒を飲み地産の野菜や肉を食べ二人で1升飲むのが今夜の予定だ。
二人はよく酒を飲んだ。だいたい克己と敦子の出会いは、道端にある屋台の中だった。へべれけ同士で意気投合し、まだ3ヶ月だけど気の合う付き合いになっている。
肩を寄せあいながら仲良く酒を飲み、けんかしても酒で仲直りし、いつでも酒が二人の仲を円滑にしていた。