北国ロマンス
新潟空港は強風の為、閉鎖されようとしていた。機内のアナウンスは「しばらく上空で待機して着陸の許可を待ちます」と告げた。小さな窓から眼下を眺めると真っ白な街の中に飛行場らしきものが見える。吹雪まではいかないがけっこう雪が舞っている。
「せっかくここまできたのに引き返すのかよ~」克己はうらめしく思った。
「そうだよ~休みは今日しかないんだからね。がんばれ~」敦子は克己の隣の席から身を乗り出して窓の下を見ながら言った。
もうだめじゃないかと思われたとき、飛行機が高度を下げ始めるのがわかった。
シートベルトをしっかりお締めくださいとスチュワーデスが言って回ってきた。
すわっ、強行着陸か。それでもいい、何とか降りてくれと二人は願っていた。
今日を逃したら初めて二人で計画したスキー旅行がお預けになる。2泊3日の短い旅で1日も無駄に出来ないのだ。
飛行機はかなり上下左右ぶれながら、なんとか着陸した。
途端、機内から喝采と拍手が上がった。誘導路をゆっくり動く飛行機を強い横風がまだ機体を揺らす。よくこんなので着陸したなと克己は思った。
小さな地方空港を後にすると、タクシーで新潟駅に向かった。
ここから目的地の苗場方面のスキー場までは上越新幹線で行く予定である。新幹線の待ち時間を利用して、先ほどタクシーの運転手から聞いた地酒を彼は駅構内で買うことにした。それは小さなアルミ缶で地元では誰でも飲む酒らしく冷蔵棚にはたくさん並んでいた。
克己は日本酒には目がなかった。
今回のスキーも新潟に決めたのはうまい日本酒が飲めるだろうと思ったからだ。吟醸・大吟醸・純米・生酒・樽酒と、飲めるものなら何でも飲んでみたい。特に克己は濁り酒が大好きだった。
黄色いアルミ缶の酒は甘ったるいのだけど強さがありコクもある。値段もまた安い。
構内の食堂で腹ごしらえにいくら丼をつまみにさっそく克己は酒を飲んだ。
「カッちゃん、持ち込みやばいんじゃないの」敦子は周りに気を使っていた。
克己は一向に気にしない。
「うまい、うまい」と言って、敦子の丼にも手をつけてきた。
「あんまり飲まないでよね。まだ先は長いんだから・・・」
結局、克己は2本の缶酒と丼を1杯半食べてしまった。