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おいしいミルクのつくりかた

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 ところで、あのココア刑事は、レモン法違反の犯罪集団を逮捕したヒーローとして今や時の人だった。なんでも、用意周到に逃亡しようとする犯罪集団を、勇敢にもたった1人で、7人の声色(こわいろ)を使って翻弄(ほんろう)し、ついに逮捕した英雄なのだそうだ。
 トレードマークの黄色いスーツを着たココア刑事は、毎日のようにテレビに出演し、『声色デカ』として脚光を浴びた。自伝本が飛ぶように売れ、2年後には警察を退職、レモン党から国会議員に立候補して当選した。翌年にはレモン大臣に抜擢(ばってき)され、人を食った声色で国民の人気を得た。すっかりタレント扱いだったが、徐々に地位を獲得し、次期総理とうわさされるまでに登りつめた。
 ところがミルクが刑務所を出所するほんの3日前、突然、レモン法違反で逮捕された。「あの自伝本に書いたミルクの逮捕劇が重要な秘密にふれてしまったんだ」とも、「今の時代に黄色いスーツなんかを着ていたのがいけなかったんだ」ともささやかれた。
 でも実のところ市民にとって、そんなことはもうどうでもいいことだった。今ではすっかり世の中は変わってしまい、何であろうと、政府がレモンと言えばそれはレモンなのだ。
――みんなと違うことをするのがいけない。目立っちゃいけない、そういうことだ。

 ミルクは曇天のもと、刑務所を出ると、あたりを見回した。10年前とあきらかに違う風景がそこにはあった。どうやら今では、黄色だけではなくすべての天然色が、またすべての曲線が、レモンだと解されているらしい。
 そこには、どこまでも続く、直線だらけのモノトーンの街並みが延々と広がっていた。
                          (了)

 本作はフィクションです。実在する法律や団体等とは一切関係ありません。なお執筆に当たり「特定秘密の保護に関する法律」(2013年12月13日公布)には、極めて重要なヒントを得ました。また「茶色の朝」(フランク・パヴロフ=Franck Pavloff著、大月書店、2003年)からは、多大な示唆をいただきました。心から敬意を表し、感謝致します。