笑顔がくれた贈り物
短編小説 笑顔がくれた贈物
ジリリリリリリリリ!!
「うぅん・・・もう朝ぁ? まだ
寝かせてよぉ」
モゾモゾ
ここは都心の一角にある閑静な住宅街
その中にある小さなアパートからこの物語は
始まる
このアパートはその家賃の安さから主に
田舎から上京してきた大学生に人気があった
それ以外にも管理人が気さくな老夫婦な事も
ありその温厚な人柄から皆に人気がある事も
このアパートの人気の1つだった その部屋の
1つに彼女は住んでいた
彼女の名前は桜リサ 上海生まれの18歳の
笑顔の可愛らしい女の子で この春から
日本の大学に通う為に祖父母の知り合いである
老夫婦が管理人のこのアパートにお世話に
なっていた
時は春が終わろうとしている5月 段々と
陽射しが暖かくなり始め夏の気配が近づく中で
彼女の新しい1日が始まる
リサ「うわぁあああ!! 遅刻だよぉおお!!」
ドタドタドタドタ!!
「おやリサちゃんは随分慌てている
ようだね」
「せっかくの日曜日だからねぇ
友達と遊びにでも行くんじゃないのかい」
リサ「お爺ちゃんお婆ちゃんおはよう
ございます!! それじゃあ行ってきます!!」
ドピュウウン!!
「はいはいおはようリサちゃん
ご飯の用意が出来てるよ」
「婆さんや リサちゃんならもう
行ってしまったぞい」
「おや相変わらず元気だこと
おほほほほ」
「ほんに笑顔の似合う可愛い娘じゃ
ふほほほほ」
2人は自分の孫のように可愛がっているリサの
元気な姿に安心しながらお茶に手を伸ばす
「のう婆さんや リサちゃん大学の鞄
持っとったが 今日は授業なのかのぅ
まさか日曜日だって事を忘れてやせんかのぅ」
「ほほほほほ あの娘はしっかりして
ますからね 大丈夫ですよ」
「そうじゃのぅ」
「そうですよ」
「「ふほほほほ」」
ところがどっこい彼女は今日が日曜日だと
いう事をすっかり忘れていた
リサ「ひぃええええ!! 遅刻遅刻遅刻だよ
ぉおおお!!」
ダダダダダダダ!!
住宅街を大学に向けて全速力で走るリサの
頭の中には一刻も早く大学に着くことしか
頭になかった
その為周りに目を向ける余裕などなかったのだ
もし周りに目を向けていれば道路に車が
少ない事にも 人通りが少ない事にも
直ぐに気がついたであろう
しかし何事にも一生懸命で元気一杯な彼女は
その事に気づきもしなかった
そして走り続ける彼女の目に漸く大学が
見えてきた
リサ「良かったぁなんとか間に合いそうだ
・・・って・・あれ? なんでこんなに
人が少ないのかしら?」
大学が近づくにつれて周りに目を向ける
余裕が出てきたリサは漸くいつもと様子が
違う事に気がついた
リサ「おかしいなぁ なんでこんなに人が
少ないんだろう・・・あっ用務員のおじさん
今日は人が少ないけど何かあったの?」
「おやおはようリサちゃん 何か
あったのって今日は日曜日だから大学は
休みじゃないか」
リサ「・・・・・え?」
「そういうリサちゃんは日曜日まで
大学の図書館で勉強かい 偉いねぇ」
リサ「ああはははは・・・そっ・・そうなん
ですよ 部屋にいても暇なんで たまには
図書館で勉強しようかなぁって・・・
あははははははは」
「リサちゃんは頑張り屋さんだねぇ
後でおじさんが差し入れを持って行って
あげよう」
リサ「え・・い・・いいですよそんなこと
・・おじさんは掃除に専念してください」
「そうかい? それじゃあしっかり
やるんだよ」
リサ「おじさんも掃除頑張ってくださぁい
・・・・・・はぁぁぁぁぁっ・・そりゃ
そうよね 日曜日なんだから人が少ないのも
当たり前よね・・・はぁ 慌てて損した」
うまく用務員のおじさんをやり過ごしたリサは
先程までの元気が嘘のようにトボトボと
歩き出した
リサ「どうしようかなぁ このまま帰るのも
なんだか勿体無いし・・商店街にでも
寄って行こうかな」
そう結論付けると彼女は商店街へと足を向けた
・・・・・・・・
・・・・・・・・
商店街にたどり着いた頃にはお店が開き始め
リサは気ままにウィンドウショッピングを
楽しんだ
リサ「あっ このキーホルダー可愛い
こっちも可愛いな」
そして暫く歩くと一件の店の前で立ち止まった
リサ「ぅわぁああ 可愛いくまのぬいぐるみ
欲しいなぁ 値段は・・・うん これなら
大丈夫かな すみませぇん このくまの
ぬいぐるみくださぁい」
リサの視線の先には ショーウインドーの中に
置かれた可愛いくまのぬいぐるみがあった
それは男の子のくまと女の子のくまが
まるで仲の良い兄妹や恋人同士のように
仲良く寄り添っていた
そのぬいぐるみを1目で気に入ったリサは
迷うことなくそのぬいぐるみを購入していた
リサ「うふふふ可愛いなぁ これから
よろしくねくまちゃん」
ご満悦のリサはその後商店街を歩いて回り
喫茶店で休憩を挟みながら2時間ほど経った後
アパートへ帰ることにした
リサ「あら?・・・どうしたんだろう」
夕暮れの商店街を歩きながらくまのぬいぐるみ
を購入したお店の側に近づいてきたリサは
目の前から小さな女の子が歩いて来るのに
気がついた
年齢は10歳くらいであろうその少女は
肩を落とし元気なさげにこちらに向けて
歩いてきた
そのあまりにも悲しそうな様子が気になった
リサは少し躊躇った後話しかけることにした
リサ「ねぇ君 どうしてそんな悲しそうな顔
してるのかな 良かったらお姉さんに
話してくれないかな」
「ぐすん・・・あのね まいの妹のね
あいちゃんのクマさんがいなくなっちゃったの
昨日はいたの・・クマさんどこにもいないの」
リサ「く・・クマさんかぁ さすがの
お姉ちゃんもクマさんには勝てないなぁ」
まい「ぐすん・・ごめんねあいちゃん
クマさん楽しみにしてたのにね」
リサ「ごめんね 役にたてなく・・・
あら?・・楽しみにしてた? (ま・・
まさかね) ね・・ねぇ ちょっと聞いて
いいかな?」
まい「? なぁに?」
リサ「あいちゃんのクマさんがいなくなった
っていうのはどういう事なのかな」
まい「あのね今日あいちゃんの誕生日なの
それでね昨日あいちゃんと2人で遊んでた時に
お店の中にクマさんがいたの」
リサ「お店の・・・中 (これは間違い
ないよね) 」
まい「それでね あいちゃんそのクマさん
とても気に入ってたから 誕生日プレゼントに
しようと思って今日買いに来たの・・・
でもくまさんいなくなっちゃったの」
リサ「あぁ・・私の馬鹿 (こんな小さな
女の子泣かせちゃ駄目でしょ) 」
私は当初女の子の言葉からペットのクマが
いなくなったのだと思ったのだ
だから自分にはどうにも出来ない問題だと思い
警察に頼む事も考えた
だがその後の言葉から漸く勘違いに気がついた