ゾディアック 8
彼女はピンク色のアイマスクを付けたまま、寝込みを襲われたのだ。
次の瞬間、数十発の機関銃の音が鳴り響き 彼らの身体は蜂の巣のように穴が開き
地面に崩れ落ちた。
白いネグリジェが真っ赤に染まった。
キィィィーーーーー!!!
また 不快な高周波ノイズが聞こえ
私の耳は耐えられず、頭が割れそうな眩暈に襲われた。
気が遠くなりかけた時、声がした。
ネムレナイ・・ ネムレナイ・・
ネムレナイ・・ ネムレナイ・・
屍の上で、彼女の霊体が血みどろのネグリジェ姿の
自分の身体に戻ろうとしていた。
何度も横になりながら、また浮き出てしまう
同じ言葉を唱えながら 同じ行動を繰り返していた。
彼女は自分の死を受け入れてはいなかった。
未だ、あの最後の夜 眠りに着いたまま・・
目覚める事は、即ち死を意味する。
絶対に受け入れてはならない事だった。
バッ!!いきなり幻視は消え
マダムがピンク色のアイマスクを取り出し、店のマスクに重ね付けして
椅子を倒しながらミクに言っていた。
「 そーなのよぉ、眠れなかったのにあなたにリフレをされた夜は眠れたのよ 」
「 まあ・・よろしかったですね 」
甲高くけたたましい声が鳴り響き、ミクが圧倒されながら穏やかに答えた。
さっき過ぎた同じ時間を繰り返していた。
次元の狭間で観えた、マダムの前世は
迫害を受けた民兵による残党狩りに遭い処刑されていた。
「 ミクは・・ 」
マダムと前世、同じカルマを背負うミクはどうなったか?
私は目を閉じ、マダムの霊体にミクを探した。
キーーーン・・ 眉間に光る菱形がクルクル現れ・・
一瞬、軍服を着た大柄の若い女性の姿が見えた。
廃屋の中に ただ、静かに立ちつくしていた。
彼女の心の中は 虚無が支配していた。
その時、ゾーーーーーッ!!
吐きそうな程の悪寒が私の身体を走った。
ザワザワザワ・・
ゼッタイニ ミテハイケナイ・・
アイマスクをかけたまま、マダムが 私の方に向いて座っていた。
その前で リフレをしているミクの背中に 黒い影が蠢いた。
ココロヲ ダシテハイケナイ ・・
ナカヲ ミテハイケナイ ・・
ココロヲ ダシテハイケナイ ・・
ナカヲ ミテハイケナイ ・・
影は 私の手や足に絡みつき、徐々に身体を覆い始めた
黒い何かが、私の中に入って来るのを感じた。
~ 59 ~
太陽が真っ赤に燃えた・・ 暑い日
戦いが起こり沢山の人間が殺された。
全てを破壊し尽くし、ポータルは完全に閉じられた。
人が最初に選択した、意識の転生が始まった
カルマの始まり --------
輪廻という時を回し
ダルマに向かって起動し始める
ゾディアック
同じ宇宙に 同じ時間はない
永遠の今、風に吹かれながら
時は やって来る
運命の輪舞・・
ヒトハ カワルコトナド・・ デキナイワ
施術を終え、私はバックに戻った。
まだ、背筋がゾクゾクしてしていた。
「 影が・・ 入って来た。あれは一体・・ 」
私は、自分の両手を広げてじっと見つめたが、もう何も見えなかった。
キィーー・・・ バタン!
背後で 更衣室のドアが開いて閉まる音がした。
誰かが入ろうとして やめたらしい。
私は振り向いたが、誰も居なかった。
ドアを開けると、ミクが手を洗っていた。
ザーザー・・ バシャバシャ・・
「 ミク・・ さっきのマダム何か言ってた? 」私は聞いた。
「 ・・・ 」ミクは聞こえてないように、黙っていた。
「 あんたとマダムは、前世一緒にいたよね 」私は言った。
ザーザー・・・・ ミクの手が止まった。
「 あんた医者だったね・・ 」私はそう言って、
あの後どうしたの?・・と心の中で尋ねた。
ミクは、手を拭きながら
「 私、銃で死んだそうです 」と言った。
突然、青いフラッシュバックが起こり、ミクの肩の上に
軍服を着た大柄の若い女性のホログラムが現れた。
さっき施術中に見えた、ミクの前世だった。
廃屋の中に ただ1人、静かに立ちつくして・・
そして、画像は消えた。あれが彼女の最後だったのだ。
彼女の心の中は 虚無が支配していた。
あの廃屋は、ミクの育った屋敷跡
故郷に戻って、自らの命を絶った。
再び、ホログラムが静かに現れた。
おびただしい数の・・ 肌色の山が見え
それは数えきれない人間の死骸・・ それぞれ切断された子供の死体だった。
ゴフッ!!! 吐きそうな悪寒と頭痛が私を襲った。
ミクは・・ 人体実験を行っていた国家機密の神経外科医だった。
ギィィィーーーーーーー!!!
錆びついた鉄戸が軋む音のような・・悲鳴が劈き
死体の山の画像は歪んで、中央から真っ黒く焦げながら
黒煙に包まれて行った。
ココロヲ ダシテハイケナイ ・・
ナカヲ ミテハイケナイ ・・
ココロヲ ダシテハイケナイ ・・
ナカヲ ミテハイケナイ ・・
呟き声が聞こえ
廃屋の中に 佇む軍服の女性が現れた。
その足元には、小さな金髪の少女が震えながら蹲っていた。
宮廷の華やかな結婚式の宴が、殺し合いの惨劇に化し
対立する宗教間の貴族同士が憎悪をむき出し血みどろに殺し合った。
女も子供も皆殺しにされ 沢山の死体の山に 阿鼻叫喚がこだましていた。
宗教が起こした血みどろの惨劇によって
少女の心は破たんし、永遠の業火に囚われていった。
廃屋の中で、軍服の女性が最後に見たものは、
彼女の過去世のカルマだった。
ココロヲ ダシテハイケナイ ・・
ナカヲ ミテハイケナイ ・・
ココロヲ ダシテハイケナイ ・・
ナカヲ ミテハイケナイ ・・
外に心を探し求めて、次の転生へと向かった。
脳神経外科医になり、身体を切り刻んで 見つけようとした
今世も彷徨い続ける
「 うううっ! 」いきなりミクがお腹を押さえて、店を駆け出して行った。
前世の幻視は消えた。
私は吐き気と悪寒に耐えきれず、再びバックの更衣室に倒れ込んだ。
ゾクゾクゾク・・ 身体中に悪寒が走り頭痛と吐き気が治まらなかった。
両手で身体を抱え、目を閉じて座り込んでいた。
ゼッタイニ ミテハイケナイモノ ・・
声がして、ピンクのアイマスクをしたマダムが
真っ直ぐ私に向き合い座っているビジョンが現れた。
ミ ― タ ― ナ ―
ガッ!!!背中を掴まれた衝撃に、目を開けると
黒い影が、 私の手や足に絡みつき 身体を覆っていた
腹のみぞおちの辺りに激痛が走り、真っ黒に焦げながら
私の中に広がって来るのを感じた。
私は 彼女達のカルマに繋がってしまった。
~ 60 ~
「うううっ・・」
鳩尾を焼かれるような激痛に 私は腹を押さえ倒れ込み
その場でのた打ち回った。
キィーー・・・ バタン!
背後で 更衣室のドアが開き、また閉まる音がした。
ザワザワザワ ・・ ザワザワザワ・・
部屋に何かが蠢き、暗黒の闇に全てが飲み込まれて行く
薄れる意識の中で、あの声が聞こえて来た。
「 僕は君の瞳に太陽を見た・・ その輝きは今でもあるよ 」
いつも見る夢・・
13歳の私が雲の上を飛んでいた。