ゾディアック 8
リオさんも・・人間じゃ無かったのですね?」
キーーーーン ・・
眉間に クルクル回る光る菱型が浮き上がるのを感じた。
リオの身体を映す正面の鏡窓に コーラルの渦が現れた。
渦はだんだんと大きく旋回し、幾重にも重なり合いながら 花びらのように開いていった。
高音のナディアがシャロンを包み込んだ。
「 そうかもしれません・・ 」リオはうっすら笑みを浮かべると、まるでほっとしたように言った。
「 古代 人々は 陰と陽2対の聖獣像を祀り そのポータルから豊かな宇宙エネルギーを受け取っていました。
その一体、受容を司る陰の聖獣像がリオさんでした 」
リオは、突然右手を私の額に当てると まるでクルクル光る菱形を感じているように目を閉じた。
キラキラ光る優しい風が 私を包んだ。
あの女神島の観音寺院で・・ あの湖面に揺れる光の森の中で・・ あの祈りを捧げたエジプトの神殿で・・
あのサラクエルと共に宿った聖獣像で・・ 全ての懐かしい同じ光を
私の人間歴の転生が次々と蘇って来た。
「 スーッと行くよ・・ 」サラクエルは転生の度、私にそう言った。
青に立ち典る 至高の不可視を
どこまでも続く ミスラトの 深く青い空が広がっていた。
「 ある日、調和し循環していた人間のエネルギーは、支配する欲望と怒りのエネルギーに変容し
全てを破壊し尽くしました。聖獣像は壊され、ポータルは完全に閉じられました 」私は言った。
「 その時からなのですね・・ やっと出逢えました。私に 」
リオは静かに目を開けると、カードを写した紙を私に見せた。
永遠の今、風に吹かれながら
時は やって来る
~57 ~
広げた紙には3枚の絵が描かれていた。
一枚を指差してリオが言った。
カップ6 森へ続く道の途中に、古風な服装の男女が立ち
森の中にある家を見ている。
とてもノスタルジックな雰囲気を持つカードだ。
「 これは過去世を表します。
過去から受け継いで来た者達との約束、カルマの清算、
因果を乗り越え再びバランスを取り戻す時が来ています 」
そう言い、リオは次のカードを指差した。
ⅩⅧ 星 輝く星の下、跪いた1人の女が 両手に杯を持ち、泉と大地に水を注いでいる絵が描かれていた。
このカードはラムカと初めて会った頃、幻視でルシフェルがしていた姿と同じ
魂の泉と大地の肉体に惜しみなく命の水を注いでいた。
「 “星”は無償の愛や与え続けることの意味を示唆しています。
シリウス・運命とも呼ばれ・・ それはあなたの運命
先が見えなくても自然の流れ・方向性に従って下さい 」
「 昔の約束・・ 光を取り戻す。星を目指し・・ 」私は呟いた。
ヤミデハ ヤミトトモニ ・・
ヤミデハ ヤミトトモニ ・・
ヤツの声が聞こえ、鏡窓に映った 私の瞳が翠色に燃え、ニヤッと笑った。
リオは最後のカードを指差し 強い口調で言った。
ⅩⅣ守護天使 黄金の翼の天使が、2つの杯を持ち 杯から杯へ生命の水を移し替えながら、
片方の足は大地に 片方の足は清流の中に漬けていた。
「 人生の重大な局面を迎えています。どんな危険や不安にさらされても、
彼らはやって来てあなたを助け護るでしょう。白い光に身を包み高次だけを相手にして下さい! 」
「 人生の重大な局面?・・ 何か危険が起こるの? 」私は聞いた。
「 ・・・・ これから、人ではなく アセンデットだけを相手にして下さい 」リオは少し沈黙してから言った。
私は最近 サロンで見えた、スタッフや客の強烈な過去世を思い出した。
厄介なのに関わってしまったのかもしれない・・
不意に背筋にゾーーッと寒気が走った。
遠い昔・・魔女と呼ばれていた時代の森の中で
ウリエルは私に教えた。
森に吹く 風が変わった・・。
人のエネルギーが、替わる所を見なさい。
同じ人間でも・・ 突然 入れ替わります。風が変わるのと同じように・・
~58 ~
シャワーを浴び、車でサロンに向かった。途中、川を渡る前に 変な形の建物があった。
赤銅色の十二面体の形をした家で、扉が1つ付いていた。アレックと看板があった。
「 いつ見ても おかしな建物だ・・ 何の会社だろう 」そう思いながら通り過ぎようとした時
木に花が咲いているのが見えた。
「 桜・・ 」
毎年9月の終わりから翌年4月まで、8か月間も咲き続ける不思議な桜だ。
嵐にあっても雪が降っても 決して散らない
まるで 神話コノハナサクヤヒメの不断桜ような
コノタネガ マガタネナラバ ケッシテサクマイ
コノタネガ マサタネナラバ エイエンニサキツヅケルデショウ
ソウイッテ ヒノウブヤヘ ハイッテイキマシタ ・・
火の産屋へ・・
先を急いだ。いつも通り、時間はギリギリだ。
橋を渡り、銀のトライアングルを回す天使が棲む あの塔のような
螺旋状の形をした坂を下りて行った。
広いバイパスに出ると、一気に速度を上げた。110キロを超え、車は振動でバラバラになりそうだった。
「 そろそろヤバイな・・この車 」アクセルを踏み込んで 速度は120キロになった。
ガーーーッ!壊れそうな音と振動で他に何も聞こえなくなった。
状態の光 相対の闇
私を取り巻く現実は 全て幻で
体現的に実現しているに過ぎないとしたら
私はいつ 恐怖を捨て去るのだろう・・
今 という永遠の時の中で
リフレクソロジーをしていると、甲高くけたたましい声が鳴り響いて来た。
キィィィーーーーー!!
それは、まるで黒板に爪を立ててこする音のような
不快な高周波ノイズに聞こえた。
私の耳は耐えられず、頭が割れそうな眩暈に襲われた。
「 あのマダムだ! 」
60代前後の常連のマダムが 白いスリップのような短いワンピースを着て、
ミクに案内され、私の前の椅子に腰かけた。
「 そーなのよぉ、眠れなかったのにあなたにリフレをされた夜は眠れたのよ 」
「 まあ・・よろしかったですね 」
甲高くけたたましい声が鳴り響き、ミクは圧倒されながら努めて穏やかに接していた。
マダムは自前のピンク色のアイマスクを取り出すと、店のマスクに重ね付けし椅子を倒しながら
「 そーなのよぉ、眠れなかったのにあなたにリフレをされた夜は眠れたのよ 」
壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返していた。
その瞬間、バッ!!!音波爆発のような衝撃波が襲った。
店の中のミクやマダムや私の客も・・ 全てが止まって見え
マダムの背後から黒い煙のような影が覆い始めた。
ザワザワザワ・・・
ザワザワザワ・・・
黒い影は、床や壁や天井を這うように伸びて来て
私の手や足に絡みつき、徐々に身体を覆い始めた。
私は凍りつき身動き出来なくなった・・
黒い何かが、私の中に入って来るのを感じた。
キィィィーーーーー!!!
甲高くけたたましい絶叫が鳴り響き、激しいフラッシュバックが起こった。
白いスリップのようなネグリジェ姿の婦人が、数十人の民兵に引き吊り出され
彼女の夫らしいパジャマ姿の男性と共に路上に転がされた。