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その鳴くや哀し

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母親の救助は難航していた。狭い車内での作業のため、一人しか作業に当たることができず、作業効率が悪い。比較的小柄な遠藤順平という隆正の後輩のレスキュー隊員が作業にあたった。順平が運転席を取り外し、シートベルトを切断して、ぐったりした母親を救出したときは、既に19時を回っていた。
周囲はすっかり暗くなっていたが、投光器に照らされて母親の姿が地上に現れると、再び大きな歓声と拍手が沸き起こった。
隆正は、救出された母親が夫に付き添われて救急車で搬出する様子を見守っていた。気が付くと、母親の救出に当たった順平が隆正の隣に立っていた。顔色が悪い。
「どうした、順平。顔色が悪いぞ。疲れたのか。」
気分がすっかり高揚した隆正が声を掛けると、順平が低い声で答えた。
「あの人、冷たかったんです。」
「陽が落ちて冷えてきたからな。」
「違うとおもいます。あれは・・・」
「どうした?」
「いや、なんでもありません。」
順平はそう言うと、黙りこんだ。
現場の片付けは翌日行うことになり、レスキュー隊も帰ることになった。
まだ土砂に埋まった道路の復旧作業が残っているが、それはレスキュー隊の仕事ではない。これでレスキュー隊の役目は終わった。
隆正は男の子を抱き取ったときの、ずっしりした重量感と温もりとやわらかい感触を思い出しながら、現場を振り返った。被災者を無事救助できた満足感と充実感で胸がいっぱいだった。特別救助隊の隊員になった日から、このような充実感を得ることを生きがいにして頑張ってきた甲斐があった。今日は家に帰って、4歳の娘に今日会ったことを話しながら、旨い酒を飲もうと思った。

作品名:その鳴くや哀し 作家名:sirius2014