Da.sh Ⅲ
警視庁青梅署の[生活安全組織犯罪対策課]という札が下がった部署の一角にあるソファに、明良は正源寺と並んで腰かけていた。
夜8時ごろになると、数人の署員は静かに机に向かい、報告書や記録を記入しているだけだ。主のいない机の上が整頓されて並んでいる姿は、どこか寂しい。多摩川河川敷に出動してきた警官や、明良に事情聴取していた警官も、今はここにいない。
「時間に遅れてしまってぇ、すまなかったな。おかげでひどい目にぃ、あわせちまった」
正源寺は、チラ、と明良を見て続けた。明良はうつむいたまま、与えられた保冷剤を顔に当てていた。
「おめぇが、喧嘩する、てぇ言ってたがぁ、あんなに大勢が集まってるとは思わなんでよ。急遽応援部隊を要請して、それで遅れてしまった。結局、全員取り逃がしてしまうという、失態をしてしまったがな、ハッハッハッ・・・あいつらぁ、どこのもんだ? 喧嘩のいきさつもぉ、言わなかったそうだな。担当官がボヤいていたぞぉ、ひとっことも口を開かなかった、てぇ」
明良は未だに、口を固く閉ざしたままだ。
「それだけぇひどい目にあったんだ。被害届を出すんだな」
黙ったまま首を横に振る、明良。そして、沈黙。
「そうか、おめぇも親父に似て、頑固もんになったもんだ。だがなぁ、明良、ワシを頼ることはぁ、もう出来ねぇぞ。まもなく配置換えがあるんだ。ま、家まで送ろうか。母さんがぁ心配してるだろぅて」
やっと顔を上げた明良。小さな声で言った。
「かあさんには、黙ってて」
明良はリンチを受けることを、喧嘩をするとぼかして、正源寺には伝えていた。それでも助かる、と思ってのことだ。一方、俺は卑怯もんだ、という意識も強く抱いていた。だからひどい目にあったのも仕方がない、これぐらいで済んでよかったのだ、と考えた。春樹、圭吾、慎也も無事だったに違いない、と思った。
月曜日に学校へ行っても、春樹、圭吾、慎也は顔を背けて、明良が言葉をかけようとしても避けてしまう。闘いの時の、各自の様子を聞きたかった。
昨日はバイクを回収しに、河川敷へ行った。
バイクは無事、止めてあったままの場所に何事もなくあった。
その後彼らに電話をしたが、話をすることを家族から断られたのだ。親が、明良と話をすることを禁じているのか、本人が電話に出ることを拒否したのか、それは分からなかった。しかし、その話し方から、3人とも怪我もなく、無事に家に帰っていたことがうかがえ、ほっとした。