Da.sh Ⅲ
明良は、3人と話をする機会をなくしていた。
250ccのレーサータイプを手に入れたくて、バイトに励みだしたこともある。目標、30万円。無論中古である。
時間を見つけてはひとりで遠乗りをしたが、スーパーカブでは満足できなくなっていた。
そんな時に、路上でたむろしていた龍神会の幹部連中と行きあったのである。その中の1台が、明良が乗っているカブの前に回り込んできたため、仕方なくブレーキをかけた。哲が降りて来て、「久!」と、片手を上げて話しかけてきた。
「明良よぅ、サツにパクられて、尋問されたってな。俺達のこと、ひとっことも喋らなかったって? ヘヘっ、かなりいじめられたんじゃ、ねぇのかい?」
明良は哲を避けて前に進もうとしたが、腕を掴まれた。
「そう邪険にするなって。なぁ、もう一遍、俺達のグループに戻ってくる気は、ねぇか。俺らみんな、お前を歓迎するぜ。もち、幹部としてだ、な。お前のその度胸に、一目置いてるんだ。復帰第一弾に、初日の出暴走を楽しむ、ってのは、どうだ」
「初日の出、暴走?」
「関東一円の仲間が、富士五湖目指して、高速道を駆け回るんだ。俺の愛車に乗せてやるぜ」
「いや、やめておく」
哲の顔を見て、きっぱりと答えた。
「ケッ。そうだ、お前の他に3人いたよな」
「ああ、けどもう、関係ない」
「あいつらさァ、お前が石を投げつけてる間に、そのまま走り去ったんだぜ、知ってたか?」
「そこ、どいてくれよ」
今度こそ明良は、グリップを回して発進させた。
走りながら、胸中がモヤモヤとして、居心地の悪いものに占領されてしまったように感じた。いつも見慣れた河川敷まで来て、バイクから降りた。枯れ草の中に寝転んで、空を見上げた。
――俺は仲間に見捨てられて、置いてけぼりを喰らっていたのか。フン、お笑い草だぜ。あいつらの心配をして、損した。
森のねぐらへ急ぐ鳥の気配に、閉じていた目を開いた。少し眠っていたらしい。
――俺は、ポリ公に喧嘩のことを知らせていた。そのことを知っていたのは、俺ひとりだ。奴らと対峙した時の、恐怖。助けが来ると分かっていても、内心、怖じ気づいていた。そのことを知らないあいつらは、もっと怖かったに違いない。もしかしたら、俺は、あいつらに恥ずべき行為を取っていたんじゃないだろうか。
哲っさんから、みんな逃げてしまっていたことを聞いた時には、腹立たしい気分だった。だけど、もし・・・俺があいつらだったら・・・やっぱり逃げ出していた、と思う。
あやまろう。ほんとのことを言おう。あいつらからなんと言われようが、非難されても、構うもんか。
明良は跳ね起きて、バイクにまたがった。