Da.sh Ⅲ
高校生になった明良は、バイトをして貯めた金でスーパーカブを買った。通学に使うためである。
休みの日には、カブを多摩川上流に向けてひとりで走らせていたが、ライダーのグループがあることを知った。龍神会という。クラスメイトに誘われたのだ。
龍神会では、多くの者は250ccのレーサータイプに乗っていた。400ccのマシンも見られる。マフラーを切断したり消音機をはずしたりした上に、3連ホーンやたくさんのラッパを装着しており、また、絞りハンドルかアップハンドルにして、三段シートに改造している。
土曜日の夜10時ごろになると、街道のパーキングに集合。改造した何台ものバイクを連ねて、街中を走った。爆音を轟かせ、ホーンを鳴らし大音声をあげて、人々の注目を浴びる。その心地よさを知った。
集団ともなれば気持ちも大きくなる。お互いにはやし立てあって、何をしても許される、という気持ちにさせられるのだ。
明良のマシンは、マシンとは言えないしれ物だが、50ccでひたすら後に付いて回った。それで間に合った。彼らはスピードを競うグループではなかったからである。明良にとって、その場の雰囲気に浸ることが肝要だった。そして時には、上級生の窮屈な後部座席に乗せてもらった。
「奥多摩ぁーっ」
市内を低速で蛇行走行した後、誰かが声を張り上げた。
「おおーっ」
「ヒャァッッホーゥ」
「イェーイ! バリバリだぁーっぜー!」
彼らはヘルメットを背中にまわし、頭髪を風になびかせて走った。
カーブが続く道を、ドラフト走行によって生じるスキール音(摩擦音)に酔い痴れながら走った。
ひとりで川沿いを走っていた頃の、体も心も冷やしてくれる風もよかったが、仲間とつるんで走る情熱の風は、体も心も、熱くしてくれた。