Da.sh Ⅲ
明良が温かい汁粉を買ってくると、近くのベンチに並んで腰かけた。
正源寺は、詳しくは語らない。
「仕事ぉ、しくじってなぁ。恥ずかしくってぇ、言えやぁせんわな」
と言っただけである。
「それでぇ、おめぇは?」
多重債務者の借金をまとめて肩代わりをし、仕事を斡旋していることを言った。
「その原資はぁ、どうしたんだぁ?」
明良は正源寺を前にすると、なぜなのか、嘘やごまかしがつけなくなってしまう。昔は黙りこくっていたのだが。
「前にパブで会いましたよね。あの頃、暴走族の連中を集めて、賭けごとをしていたんです。聞き付けた奴らが、あの店に入りきらないほど集まって。酒も売ってました」
「そうか」
その目は、遠くを見つめていた。
「暴力団の抗争があってぇ、関係者を追ってぇ、いたんだったかな」
「あの時、ひとり、匿っていました」
「分かってたよ。でぇ、なぜパスポートがぁ」
明良は言っていいだろうかと考えた末に、迷惑を掛けることになるかもしれないからと、決心をした。
「友達を、ベトナムに逃がすためです」
正源寺は、それ以上は突っ込まなかった。
「いい友達なのか?」
「はい」
どれほどの時間が経っただろうか。お汁粉を飲み干し、その缶を両掌に包みこんでうつむいていた。
「君子さん・・・母さんはぁ、元気になったか?」
「母は死にました。去年」
「そうか」
正源寺はうつむいたままで、黙り込んだ。
「奥さんは?」
「そんなの、いねぇ」
ぶっきらぼうに言う。
「結婚されなかったのですか?」
「・・・フッ、ワシはなぁ、君子さんがぁ、好きだったんだ。お前の親父とさぁ、張りあって負けたんだな、ハッ。ふたり一緒に、君子さんを町で見染めてさぁ、声を掛けた。それよりぃ、明良はぁ、どうなんだよぅ」
「いません・・・さあっ」
勢いよく立ち上がった明良に言った。
「明日の夜ぅ、来るんだな。あそこのビニールシートの下にぃ、いるからよ。用意しといてやるよ」
公園の一角を指差した。