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Da.sh Ⅲ

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 眠気が去って気付くと、ベッドの上で縛りつけられていた。足には点滴のチューブが繋がっている。
「苦しい、注射を」
 体をベッドから浮き上がらせるようにして叩きつけ、叫んでは悶えた。誰かが扉を勢い良く開けて入ってきた。
「係長、我慢してください。いったい何があったんですか!」
「苦しい・・・頼む。1本でいいから、頼む」


 もともと意志強固な正源寺であったから、3か月で警察病院を退院できた。しかし、職を解かれることからは免れ得なかった。事情聴取を受け、家吉会を家宅捜査したが、物証できるものが何も見つからず、結局、違反薬物を注射したという証拠しかなくて、たとえ無理やり打たれたのだとしても、そういう事態に陥ってしまったこと自体が、過失として扱われてしまったのである。

 こういう事態に陥ってしまったのには、裏があった。無論正源寺は知る由もなく、将来にわたっても知らないままなのであるが。
 ノンキャリアの正源寺は、自らの努力によって警部にまでなることができたのだが、それによるものなのか部下たちの信頼が厚い。それを上司である、年下ではあるがキャリア組の課長は、快く思っていなかった。課長が使っていたエスは家吉会幹部であり、傘下の組長でもあることから幅を利かせて君臨している。その彼に、正源寺と虎尾強の関係を教えた。

 銃の押収に遭ったのは強が原因だったと知った彼は、強の目の前にナイフを突き立て、落ち着いた冷ややかな声で告げた。
「これで指を詰めろ。1本じゃない、4本だ。昔なら、土左衛門になってるところだ」
 強は震えあがった。その場を逃れようとして出口に向かって走った。すぐに両脇を押さえられて、ナイフの前に立たされた。それを、体を震わせて眺めおろした。
「助けてやらんでもない。ただし、条件がある」
 救いの言葉に強は唇をかみしめて、口端を上げている彼を見つめた。彼は片眉をあげて背中を見せると、こともなげに言い放った。
「正源寺というデカを、引退させろ」


 退院の朝、同僚に署まで伴われ、上司からは改めて懲戒解雇を言い渡された。
 持ち物を整理していると、課長のいない間に、元部下たちが別れを惜しんでから外周りに向かう。没収されていた携帯電話を返却してもらって、署を出てから確認した。
 あの事件のあった後、君子さんからの着信記録が連なっている。君子さんは事件のことは、知らないはずだ。音信不通となっては心配だったろうと思いつつ、それだけを確認して近くを流れる川に投げ入れた。
 ズボンのポケットに片手を突っ込むと、風呂敷包みを提げて住まいに向かった。
作品名:Da.sh Ⅲ 作家名:健忘真実