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Da.sh Ⅲ

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 正源寺満政を転落させ、免職となるきっかけになった事件があったのは、シマ戦争で、暴力団の取り締まりが強化されてまもなくのことである。
『もしもし、面白いネタを手に入れたんすがね』
 携帯電話は、虎尾強を表示していた。
「そうか、いつもの所で8時。でいいか?」
 おそらく敵対する組の情報に違いない、と期待して、約束の場所に出かけた。虎尾強はすでに待っていた。
「やぁ」と片手を振り上げてそばまで行くと、音もなく背後に張り付いてきた者が、尖った物を背中に押し当てる。同時に車が滑り込んできて、抵抗する間もなくその中に押し込まれたのである。
 あっという間の、あざやかな連係だった。

 連れ込まれたのは古びたビルの、元倉庫らしい。4畳半程度の広さで何も置かれておらず、窓がない。後ろ手に縛られ、注射をされて転がされた。
「くそっ。覚せい剤か!」
「ヘロインさ。1日お泊まりいただくだけで十分な代物ですから。ま、つかの間ですが、快感に浸っていてください」
「刑事さん、3時間後に、また来ます。ごゆるりと」
 彼らは部屋から出て行くと、鍵を掛けた。振り返るようにしながら最後に出て行った、虎尾強の眼差しが焼きついている。オドオドとして定まらず、それでも時々見せる、許しを乞うような眼差し。

 ヘロインは麻薬の中でも最も短時間で、強度の依存性が現れる。皮膚が熱くなるような、高揚した感覚に捕らわれるのは初めの1回だけで、高揚感を得るためにではなく、薬が切れた時の強い不快感と関節痛、おう吐などの激しく襲ってくる苦痛を和らげるために薬を打ち続けることとなり、それは内臓と精神をことごとく蝕み、やがては廃人となって死に到らしめる、1度なりとも使ってはならない薬物なのだ。

 強い眠気に襲われていると、再び男たちが入ってきた。しばらく覗き込んでから再び注射をした。朦朧とした中で強の姿を求めたが、見つからなかった。強は、二度と姿を現すことはなかった。
 夜明けとともにも一度注射を打たれた後、車に抱え入れられると、渋谷署の近くの通りまで運ばれて打ち捨てられた。
 車が時々行きかう通りにはまだ人影もなく、よろけるようにして署の扉の前まで行くと、倒れ込んだ。
作品名:Da.sh Ⅲ 作家名:健忘真実