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Da.sh Ⅲ

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 営業している喫茶店を見つけて、向かい合った。
 正源寺は、周辺の探索でくたくたになっており、喉もからからに乾いていた。どっかりと椅子にもたれ込むと、大きく伸びをした。
「5年、になるかな、お前がぁ会社を辞めてからさぁ」
 明良はうつむいていた。
 グループのリーダーとして仲間をまとめ上げ、いくつもの暴走族をも引き付けている明良だが、正源寺の前に出るとやはり、昔と変わらず萎縮してしまうようである。
 そんな明良をしばらく見つめてから、声を落として続けた。
 手持無沙汰な店員が、聞き耳を立てている。
 
「母ちゃん、待ってるぞぉ・・・お前がぁ、会社を辞めたぁ直後だったんだよ、お前にぃ会いに行ったのはぁ。母ちゃん、入院した、とな、お前と連絡が取れない、とぉ、俺に連絡してきたんだな」
 驚いた表情のまなこを見つめ返した。
「今はさぁ、家で養生しながらもぉ、細々と店を続けているよ。時々覗きにぃ、行ってはいる。お前もよぉ、顔を見せてやんな。俺が言いたかったのはぁ、それだけよ・・・さぁあてぇ、どうも徒労に終わったようだな、俺の追跡はぁ」
 残っていたコーヒーを飲み干すと、勘定書をつかんで立ち上がった。明良は、正源寺の後ろ姿を目で追いかけた後、そのままひとりで考え込んだ。

 正源寺は、怪我人を匿っていることに気が付いているんだ、と確信した。怪我人とは、日本刀で切りつけられた稲山会組員の、水元である。
 パブにいたのは俊介や春樹、圭吾達古くからのバイク仲間であり、そこで今では、ファイティングショーを主宰して賭け金等を集めると同時に、酒をも提供している。
 水元は、見ヶ〆料の請求に時々顔を出してきていたが、彼ら組員たちの嫌がらせには断固として対抗し、自分たちの信義を押し通して屈服することはなかった、という関係にしか過ぎない。
 それでも、重傷を負いながら頼りにしてきた者を、追いやることは出来なかったのである。奥にある部屋で、俊介が自己流の外科処置を施した。正源寺が入ってきた時には処置が終わり、このまま匿っておくか、それとも警察か組に通報するかを相談していた。
 正源寺の別れ際の言葉で、明良は決断を下した。
――厄介だが、自分で立ち上がって出て行くまで、好きにさせるか。


 正源寺に、明良の母君子から喜びの電話があったのは、その翌週明けのことだった。声に活気が戻ったような、はしゃぐような物言いに、ほっと安心したものである。
 暴力団の抗争が勃発して、その遠因となったのは、銃器の取り締まりにエスを利用した為ではないか、とこじつけたような事柄を問題視された。正源寺の、虎尾強を利用して事務所を家宅捜査したことも取りざたされ、気分的に落ち込んでいた時でもあったから、君子の喜びようは、自身を元気づけるものとなった。
作品名:Da.sh Ⅲ 作家名:健忘真実