Da.sh Ⅲ
執念の思いで捜査する正源寺は、いつの間にか部下たちとは離れ、ひとりで、うっすらとしか分からない血らしき跡をたどっていた。
こすったような血の跡が、小さなパブの扉に付いているのを見てとった。歩き疲れて少しだけでも座る所はないかと求めていると、偶然目に入ったのである。渋谷区にある、ありふれたパブであった。
まだ閉まっているかもしれないと思いつつも、引いた扉は、開いた。
仄明るい店内には、はたして人がまばらに数人座っていた。彼らの視線が突き刺さってくる。外見からはうかがい知れなかったが、広々とした店内である。テーブルの置かれていない所では、ダンスでも繰り広げるのだろうか。
そこにはなんとなく、空気が張り詰めている感じがする。しかも、誰も言葉を発してこない。店内をひと渡り見回した正源寺は、そこにいる人々に視線を走らせてから、警察手帳を掲げて質問した。
「ここにぃ、怪我人が来なかったかい?」
カウンターの内側で、グラスを磨いていた男が答えた。
「怪我人なんていませんよ。見てもらえば分かる通りです。なぁ、みんな」
同意を求める、角ばった言い方に疑問が湧いたが、捜査令状はないので奥を見せてくれとは言えず、室内の状態を見回すだけだった。
も一度、ひとりずつに視線を投げた。そして目を瞠った。
「あきらぁ・・・明良じゃねぇか!」
そこにいた男たちの視線が、ひときわ体格の優れている男に向けられた。彼は組んでいた足を戻すと視線をそらさずに黙ったまま、顔を少し前に突き出した。
「明良ぁ、久し振りだなぁ。ちょっとぉ、話さないか。外に、行こう」と頭を振ると、「やっ、邪魔したな」と背中を向け、開けた扉を押さえて明良を促した。