Da.sh Ⅲ
「強、じゃねぇか。こんな所でぇ、立ちんぼか?」
正源寺が休憩を終えて、署に戻る前に代々木公園の中をぶらついていると、虎尾強は誰かを探しているかのような素振りで、当たりを窺っていた。近づく正源寺の姿は、目に入っていなかったらしい。
ということは、見知らぬ人物と何らかの持ち物か、あるいは服装の格好や色などで示し合わせて待ちわびていたのだと、感づいた。
「ゥッス」とバツが悪そうに言う。
「おめぇ、薬を誰かにぃ、売り渡すつもりじゃぁねぇだろうな」と言いつつ、「そんなことありまっせんっ」とうそぶく強の腕を抑えるようにして、ポケットをまさぐっていった。
ズボンの後ろポケットに、それはあった。無造作に、小袋でむき出しのまま突っ込んでいたのには呆れてしまった。
「ほれ」
目の前に突きつけると、強は顎を突き出して認めた。
「これはぁ、没収だ。弟分にさせずにぃ、自ら立ってるってぇのは、どういう訳だい?」
「なかなか厳しいんですよ、暮らしが。うちの坊主も高校生なもんで、連れがなかなかに、うるさいんすよ」
「まっとうな仕事にぃ、就くことだな」
渋谷署の組織犯罪対策課に配属となって係長を務めている正源寺は、長年の付き合いでもある家吉会の下部組織員の虎尾強をエス(情報提供者・spy)のひとりとして、少々のことには便宜を図ってやっていた。上司も承知していることである。
「でなぁ、チャカ、十ほどあるとぉ、助かるんだわ。なんとかぁしてくれんかぁ、連絡待っとるで」
そう言いながら自分の上着のポケットから財布を取り出すと、「息子にだ」と、2枚抜いて渡した。
その頃、家吉会と稲山会、それと関西から進出してきた山田組との間では、小競り合いが頻発して極度の緊張状態にあり、いつ戦争が勃発するか知れない、という情報が回ってきていた。抗争の原因はほとんどが金銭がらみであり、今回の場合は縄張り争いという、やはり収入源に強く関わってくることである。
ロシアや北朝鮮からの船で銃が持ち込まれている、という情報を得ていた。水際で食い止めるために持ち物検査を厳しくしていても、積み荷の中に紛れ込ませて持ち込むのには、お手上げ状態である。銃を分解して分散させて運搬してしまえば、検出できなくなってしまうからだ。
市民が巻き添えとなりやすい銃撃戦に至らせないために、どれぐらいの数量かも分からないのだが、出回っている銃器を早急に回収しなければならない。各管轄署を競わせるかのような通達が、警視庁本部から回ってきている。
銃を購入するための資金稼ぎを、組員自らにも課せられているのだろう。正源寺は、虎尾強の言い分にはなかったそこまでを読み取ると、どの程度の銃が家吉会に入っているのかを探らせ、その上で組事務所に踏み込むことになるという筋書きを練っていた。
エスとして使っている連中は皆、ある意味で実直である。信頼で繋がっているのであって、頼めば必死になって応えてくれる。
虎尾強も、そういった類の人物であった。