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Da.sh Ⅲ

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 3時限目の授業は体育であった。体操服を忘れたことに気付き、2時限目が終了した休憩時間に取りに帰っても十分間に合うので、先生の許可を得て家に戻った。中学校への通学には、自転車を利用している。

 いつもなら、母が営む雑貨店はとっくに開いているはずだが、シャッターは上がっているにもかかわらず、カーテンが閉められ鍵もかかったままになっていた。
 父が亡くなった後母が引き継いで、ひとりで雑貨店の仕事を切り盛りしている。食料品なども置いており、仕入れや配達などもひとりでこなしている。不在の間は店を閉めている事もあるが配達は午後のことであり、その間は、近所にひとりで住んでいる祖父が代わって、店番をしていることが多い。
 
 裏に回った勝手口の開き戸には、鍵はかかっていなかった。
 2階にある自分の部屋に行くには、食事室を通っていく。
 台所に上がろうとして靴を脱ぎかけた時、食事室の方から人の気配がした。何かうめき声を発して、這っているようでもある。母の体の具合でも悪いのかと思い、背筋をブルッとさせ、急いでふすま戸を開けた。
 瞬間、固まってしまった。
 すぐに音立てて身をひるがえすと、運動靴をつかみ裸足で外に飛び出していた。靴は両手に持ったまま、自転車にまたがった。
「ふんっ、ほっとけ。母親も女じゃと、分かったろうて」
と言う祖父の低い声が、耳に届いた。

 頭を左右に何度振ってみても、女、女、おんな・・・という言葉が消えて無くなることはなく、むしろしつこい程に頭の中で反響している。明良にとって、母は母以外の何者でもないはずだ。母の性など考えたこともない。将来にわたって、考えることはなかったはずである。
――くっそー、ふたりとも、死んじまえっ。汚ならしい!
「くっそーっ」
 鳥の姿が見えなくなると、立ち木に向かって石を投げ続けた。石は同じ場所を穿っていった。
 その日はもう、学校には戻らなかった。
作品名:Da.sh Ⅲ 作家名:健忘真実