Da.sh Ⅲ
河川敷で扁平な石を捜し出すと、右肩を後ろに引いた瞬間に腕を水平にして振り抜いた。石は川面を数回、跳ねるようにして飛んだ。
明良は再び、石を探し求めて河川敷をうろついた。
嫌なことがあるといつもここで、石を探して投げる。中洲で羽を休めている鳥を見付けると、それを的にした。逃げられることもあるが、ほとんど命中させることができる。
しかし今日は、外れてばかりだ。いや、わざと外しているのだ。
驚き羽ばたいて飛び去る鳥に向かって、続けざまに投げつける。石がかすめて、とれた白い尾羽が1枚舞っているが、これもわざと、である。
近頃は、命中して落命させてもそのままにしていた。水に浸かってまで拾いに行く気はしない。
近頃は、というのは、父親が生きていた頃にはそれを許さなかったからである。
石を命中させて獲物を捕る技術を教えられたのは、父からである。
敗戦後の貧しい生活の中で、貴重なタンパク源となる鳥や、ウシガエルやヘビなどの肉を手に入れることは、子どもたちに与えられていた仕事のひとつであった、という。その手段として、兄弟や友達と技を競い合ったそうだ。
「命を粗末に扱ってはならん」
というのが、父の口癖であった。
「いざという時には、ひとりで生きて行かねばならんこともあるからな。この技が、役に立つことがあるかもしれん」
とも。
そのことを覚えているから、という訳ではない。もうほとんど思い出すことはないが、ただ面倒なことは、その元を作らないようにしているだけである。