Da.sh Ⅲ
国道299号線から53号線へと抜ける、カーブが連続する道を走っている時、落ちている泥の上をタイヤが横滑りしたのだろうその跡が、ライトに照らされて浮かび上がった。
おそらく転倒したんだろうな、不運な奴だ、と思っただけである。
しばらく走って、バイクを支えるようにして立っている人物を捉えたが、そのまま走り去るつもりでいた。だがすぐに思いなおして、声をかけたのである。なぜなのか分からなかったが、誰かと関わりたい、という気持ちが湧き起こってきたのだ。
そして、ライトがつかなくなっていた明良のバイクをいじっている時にふと、まるで僕、外科医みたいだ、と思ったのである。
両親の思いは、俊介には重荷になっていた。
高校進学においても両親は、都心にある医学系進学校を強く推していたが、それに抗って、友人が多く進学する地元の公立普通校を選んだ。それでもなお両親は、医学を志し、医院を継ぐことを期待し続けている。
クラブ活動に参加はせず、形だけは期待に応えるべく、学校の授業を終えると直で塾に行き、勉強のために時間を費やしているのだが、自分が本当にしたいのは何なのだろうかと考えても、もひとつ将来のことがつかめないでいた。
まわりの友達を見渡しても、今から将来を設計している者は、ほとんどいないようである。具体性を持っている者はやはり、親の職業の影響を受けているか、後を継ぐという期待を受けているらしい程度である。
受験のために時間を割くことよりも、“今” しか得られない仲間と時間を共有し合い――それは、全身で情熱をぶつけ合い、泣いては笑うという青春――そういったものの、真っただ中にいる彼らが、羨ましかった。
モトクロス競技会に参加することを諦めてしまった俊介にとっての今は、時々バイクを走らせることだけが、青春の証でもあった。
こうして他人の機械をいじっている時、故障を修理している時、それによって喜ばれているのだと感じることは、翻って自身をも嬉しくさせてくる、その感情が心地よかった。
医者という職業も人の役に立ち、人を喜ばせるという点ではそうなのかもしれないが、俊介が求めているものとは、それはちょっと違う気もしていた。