Da.sh Ⅲ
隔週で仕事が休みとなる土曜日の前夜には、翌早朝にかけて、春樹、圭吾と並んでマシンを走らせた。慎也は北海道にある大学に進学した為に、参加は出来ない。
ひとりで、深夜の首都高速を走ることもある。
ライトに照らされた路面と壁面を注視して、体に伝わってくる振動を感じ、マシンの体調(エンジンの音)に耳を傾ける。何もかも忘れ、マシンと一体になれる瞬間だ。
120km/hを超えると正面からの風が、まるで敵(かたき)を取るかのように、強烈に顔面を殴りつけてくる。ヘルメットの重みに加わって、首ごともがれそうになる。体をカウル(風防)の内に屈める。
150km/hを超えると、車体が振動し浮き上がる感じがする。少しその速さで走った後、スピードを120km/hに抑えて、肺に貯めていた空気をゆっくりと吐き出し、深呼吸を繰り返した。
譲り受けたばかりの時に走った正丸峠へ到るまでの、急カーブが連続するコースが、急に懐かしく思われて行きたくなった。
会社が休みの土曜日、午後遅くに正丸峠へと向かった。都心部西側から埼玉県飯能市へ。国道299号線を20キロほど走ると、正丸峠へと向かう道へ入る。それをしばらく進むと、ヘアピンカーブが続く道だ。そうして国道53号線へ出ると、青梅市はすぐそこだ。
家に、就職以来初めて、顔を出すつもりである。
昔よくやった、タイヤのスキール音(摩擦音)を発しながら、峠に着いた時には夜の静寂があるばかりで、すれ違う車もなく、無論そこにある店も閉まっていた。峠から見る景色。空は、雲に覆われていて星は見えなかったが、遠くには家々の明かりが瞬いていた。もうすぐ懐かしい我が家に帰る。
母の驚く表情が楽しみだった。
「そろそろ、顔を見せておくれぇ〜な」と、最近よく電話が掛かってきていた。
「まあ、近々帰っから。連絡はしないよ。そのほうが準備しなくって、いいだろうし」と言っておいた。