Da.sh Ⅲ
高校を卒業した明良は、大田区にある、小さな金型を作る工場で働き始めた。60代の社長および最古参が50代。40代と30代がそれぞれひとり。皆既婚であり年齢が離れすぎている為、新卒の明良は可愛がられた。だが、指導は厳しい。
慣れない作業にくたくたになって帰る、会社の近くにある古びたアパートの一室が、新しい城である。
祖父は、去年の夏に死んだ。宵の町で、自転車に乗っていて転んだのが原因である。
駅近の酒場で飲み、ほろ酔い気分で店を出た。店主は、自転車に乗って帰るとは思っていなかったそうだ。いつもは歩いて帰っていたからだ。しかしその日は、電気店で買った扇風機を自転車の荷台に積んでいた。酔っていた上に積み荷のバランスが悪かったのだろう、後ろからの車両を避けたはずみでよろけて盛大に倒れ、ガードレールで頭を強く打ち付けたのだという。
明良は、祖父の通夜にも告別式にも出なかった。母の説得を振り切って、両日とも先輩から譲り受けたばかりのレーサーレプリカNSR250で、国道299号線から正丸峠(埼玉県飯能市)へと飛ばしていたのだ。
祖父の存在がなくなって複雑な気持ちもあったが、家を出ることに気がかりがなくなり、あっさりと、都心部に出て働くことを決めた。
会社も住まいも、築地警察署に配転となっていた、正源寺の紹介である。明良のことをいつも気にかけてくれている正源寺は、組織犯罪対策課の係長になっていた。