Wish プロローグ2
「ふふーん♪それはね~、……じゃ、じゃーん!これを見よ~♪」
姉さんは、どこぞの猫型ロボットのように机の下から大きな袋を取り出した。
「何ですか?このやたら大きい物は?」
「見てわからない?おみやげだよ♪私が春休み前に、旅行へ行くって言ったこともしかして忘れてるんだね~」
「そういえば、そんなこと言ってましたね」
しかし、この量は…。軽く10人分はありそうだぞ。
「姉さん、ひとつ聞いていいですか?」
「何?一つと遠慮しなくてもどんどん聞いてくれてかまわないよ♪」
「いや、そんなにありませんって…」
「いや、あるよ♪例えば、『私のスリーサイズはいくつなの?』とか、『今日は勝負下着なの?』とかあるでしょ♪」
まぁ確かに聞いてみたい気もするけどな…。
って、いかんいかん何を考えてるんだ。
「いや、それじゃただのセクハラになりますよ…」
「そう?私はぜんぜんかまわないんだけどな♪もちろん、私は春くんには全力全快なんだからね♪」
いや、さりげなくサラっと言いましたが、そういう問題じゃないと思いますよ…姉さん。
「それで、話が脱線しましたが、姉さん、どうしてこんなにおみやげくれるんですか?」
「それは愚問だよ!私の春くんへの愛情が、溢れるばかりにあるのだということをね、示したかったに決まっているよ♪」
姉さんは屈託のない満面の笑みで、そして真っ直ぐな瞳で俺を見つめている。
って、そんな満面の笑みで見られてもなぁ…。
「からかわないで下さいよ~姉さん」
もう、すぐに悪戯するんだから困ったものだ。
「からかってないよ。私は常に本気だよ♪その証拠に、春くん、周りをよく見てごらん」
「え?周り?」
姉さんの言うとおりに周りを見渡す…が、周りには何もなく、生徒会室に俺と姉さんがいるだけだった。
「って、俺たちしか居ませんよ」
フフっと不敵に微笑むと姉さんはドアのところまで歩いていく。
「カチャリ♪♪」
部屋の鍵を閉めやがりました。
「って、何で鍵を閉めるんですかッ!!!」
「フフ、これでもうこの部屋には誰も入れません♪邪魔者もナッシング♪お姉ちゃんと春くんだけの二人しかここにはいないってわけなのだよ♪フフッ、誰にも邪魔されずに蜜月の時間を過ごしちゃうことができるんだよ♪」
姉さんは、怪しくニヤニヤと微笑みながら俺の方を見る。
「さぁ春くん、今が絶好の機会だよ♪」
「『何の』ことですか!?意味がわかりませんって!」
「決まってるよ、わ…私と~親密な関係になるための…だよ♪」
勢いのよかった姉さんが途端にボソボソと頬を赤らめてか細い声で呟いていた。
「今のままで十分親密だと思うんですけどね」
っていうか従姉なんだから親密も何もないんだがな。
「もう~わかってないな~春くんは。いい??親密といっても『ただ』の親密と大違いだよ。私が言っている親密とは、そう!愛情の深さのことだよ」
「いや、余計にわからないですよ」
何で、ここで愛情の深さが出てくるんだ……謎だ。
「もう、春くんには、わからないかな。それはね、男女ふたりが誰もいない部屋ですることといったら……『あれ』しかないよ♪うふふふ」
「『あれ』って…まさか!」
「たぶん今、春くんが想像しちゃったので正解だと思うよ」
密室で男女がする『あれ』といったらあれしかないよな…。
アレか、あれなのか。トランプか??それともフォークダンスか??
…絶対、いや違うな。
姉さんの言う『アレ』が俺の知っているものならば、俺としては大歓迎なのだが……。
って俺は何を考えてるんだ。
「そ…そんなことできませんよ!何を言っているんですか!」
「えぇ…!私じゃ不足なの!?それとも私には魅力がなかったりしちゃうわけだったりする!?」
「そういう問題じゃないですよ!第一ここは学園で、それに俺と姉さんはそういう関係じゃ…」
「だから、こうやってそういう関係になっちゃおうとしてるじゃない」
「ダメです!もう、学園の生徒会長ともあろうお方が風紀を乱してどうするんですか!」
「うぅ~!私は、全然、かまわないんだよ♪相手が春くんなら」
露骨にわざとらしく人差し指を咥え、頬を朱色に染めてパッチリとウインクする従姉さん
従姉とはいえこの人は、いったいどこまでが本気なんだろうか…。
「そうすれば自動的に春くんは生徒会に…くっくっく」
やっぱりそれが目的だったんですね。ああ、わかっていたさ。
ちょっとでも期待した俺が馬鹿だった…ああ、馬鹿だったさ。
「なら、春くん、せめて一緒に生徒会をやってよ?」
「俺なんかじゃ姉さんの役に立てそうもないと思いますよ」
「大丈夫♪それは気にしなくても。ほら、あのトーくんでさえ生徒会の仕事しちゃってるくらいだからね。だから大丈夫だよ~♪」
「姉さん…フォローになってないですし、それはそれで問題があるような…」
凍弥は、中等部からの問題児だ。
体育祭や文化祭といった行事に必ず問題を起こすのだ。
ちなみに、俺と暁もそのたびに凍弥の悪事に加担させられている。
ホント困ったもんだ…。ちっとは加担させられてる俺たちのことを考えて欲しいものだ。
そんな、凍弥が生徒会に入った時には、誰もが驚いたものだ。
本人に直接聞いてみたところ、
「入った理由か?決まってるじゃないか、面白そう…(ニヤ顔)に決まってるじゃないか。あはは」
と、わけのわからんことを言っていた。あいつらしいと言えばそうなんだがな。
まぁ、あいつは生徒会で保護しておいた方がいいだろう。
「おやおや…。まぁ保護されるつもりはないんだがな」
「うわぁ!いきなり沸いて出てくるな!というか、俺の心を読むんじゃない」
「おぉ、スマンな、つい、いつもの癖で」
どんな癖だよ、それは!これじゃ、おちおちと考え事もできやしない。
「それで、お前は何しに来たんだ?」
「おお、そうだった。会長、例のプランAはどうなりましたか?」
「あぁ~それね。それは既に完了しちゃってるよ」
「そうですか。予定より早いですが、プランBに移行しますか?春斗を引き込むには今…ふぐッ!?」
「うっほ、ちょい待ちっ!!油断禁物だよ、トーくんっ!!」
目をまん丸に開いて、慌てて凍弥の口を塞ぐ。
「ぐ、いかん。俺としたことが不用意に情報を漏洩させ、我ら生徒会に甚大なる被害を生むところだった。すまん、会長、これは俺のミスだッ!!!」
自国を危機に晒したかのような大げさなくらい頭を抱え、机に両手を叩きつける凍弥。
「これが実戦であったら我が国は滅びていたわ。そのトーくんの情報漏洩が許されざる結果を招いてしまっていた。何人もの兵が死に絶え、国を信じ、勝利と平和を願っていた国民を裏切ったも同然、不用意なトーくんの行動で国を滅ぼしたと言っても過言じゃないわ」
おや??おやおやおや??
あの、ここ『生徒会』ですよね??
部屋間違ってないですよね??
胡散臭さを通り越し、いつになく真摯な眼差しで淡々と語ったシリアスな従姉。
っていうか、俺は蚊帳の外で始めないで?!
作品名:Wish プロローグ2 作家名:秋月かのん