Wish プロローグ
それは、まぁ、朝からあれだったからな…。敢えてこいつには言わないでおこう。
それが得策かつ最優先事項、俺らのため世界のためだからな。それは間違いないだろう。
「それはだね、春斗が今日登校日だったことを忘れて、のんきに朝ごはんを…」
「って、ちょっと待て!それは、お前だろうがッ!」
かえでめ。俺に責任をなすりつけたうえに濡れ衣を着せやがるとはいい度胸じゃないか?今朝の出来事すら忘れちまったのか。いや、きっと俺の家にメモリーボックスごと置いてきちまったんだろう。ったく、せめてそれぐらいは忘れずに持って来ようぜ?
「何デスと!?春斗だって『早起きしてゆっくり朝飯を食べるのはいいもんだ』って感慨に浸ってたんじゃないさ」
まぁ、少しはそうだったかもしれないが…でも、こいつとは違うのは確かだな。
なんせ、おかわりまでしようとしてたんだからな…。
俺は急ごうと行動していたし。
そうさ、かえでなんかと一緒になんかさせちゃ困るぜ?
「ははは。ホントあんたらってしょーがないな」
かえでと一緒にされてしまった……はぅ。
「しかし、お前って相変わらず朝早いのな」
「とーぜんよ、少なくとも春斗だけには負けたくないからな。それに、あたしさお腹減っちゃって勝手に目が覚めるんだよ。なんて言うか、あたしには、目覚まし時計なんかお呼びでないっていうか、あはははー」
茜は、どこぞの怪獣のように口を大きく開けて笑っていた。
「逞しいかぎりだな」
こいつは、市ノ瀬茜。俺の悪友だ。
茜は、明るくて元気、そんでもって少し男勝りで負けず嫌いな、そんな奴だ。
まぁ、茜は女だが、誰にでも気さくで気軽に話せるし、それにいざって時には頼りになる頼もしい奴でもある。
このおかげで、男子からの人気よりも女子からの人気が圧倒的に、いや、学園№1と言ってもいいだろう。きっと、女子からは『頼れる姉御』に見えるのだろう。そうにちがいない。
「そういや、暁の奴どうしたんだ?休みか?」
「わかんない、電話しても出ないんだよ。暁の奴、まったく何してんだか」
「あれだよ☆!」
「どれだよ!」
下っ端研究員がふとしたきっかけで名案が思い浮かんだの如くかえでは、目を輝かせて何か閃いたのか手をポンと叩いた。
「それはあれだよ。春斗みたいにふとんの中でぐっすり冬眠中……」
「テメェ喧嘩売ってんのか」
そうなら俺は売られた喧嘩を買ってやらんといかんな。
こいつのためにもな。
「冗談だよ…。だから、とりあえずその振り上げてるこぶしを下ろしてよ」
まったく、冗談なら最初からそんなこと言うなっての。
「はよ~♪お揃いだな諸君~♪」
かえでと馬鹿やってる間に、ご本人の登場だ。
しかもえらくご機嫌だ。
「よう、暁、どうした?今日は、やけにご機嫌じゃないか」
気味が悪いくらいニカニカと満面の笑みで微笑みながら俺たち3人を見据えていた。
「そうだ、聞いてくれよ~♪♪俺ってばなんと、メイドさんと一晩を明かしちまってよ♪♪それも1人じゃないぜ??もう、身体が足りやしねぇっての♪♪いや、モテる男は辛いねぇ♪♪」
朝っぱらからこいつは、とんでもない事を言い出した。
まぁ、いつもの事だが。
「うほ☆相変わらず節操がないネ☆そこにしびれる、憧れるぅ☆」
「まともに取り合うなって。どうせ昨日やってたゲームの話だって」
まったく仕方のないヤツだ。
ゲームとリアルを混合すんなっての。
だが、そんな思いを一瞬にしてボロボロに打ち砕く一言が俺を襲う。
「いや夢だけどさ(キラ☆)」
「って夢かよッ!!なお、悪いわッ!!!」
まさかの爆弾発言。
恥じる事もなく屈託のない表情で微笑むヤツの顔はとても輝いていた。
「そんで今日さ、スゲー夢見ちまってよ~。それも、メイドに囲まれてご奉仕三昧な夢だぜ、もう、起きたくなかったぜ~ちくしょー!!カムバック俺のメイドインヘブンッ!!!」
「いや…たぶん、お前の脳はまだ夢から覚めてないだろ…」
…ったく現実に目を向けろよ。直視すべきはリアルだ。
所詮夢は夢であり、夢を見るのは寝る時だけにしろ。
「嗚呼ッ!!素晴らしきはメイドッ!!あのフリルといい、あのカチューシャ、決め手はそのメイド服ッ!!それを純真で無垢しか知れぬ少女が纏うことはマニアにとってもこれほどの至福の時はないよなッ!?」
「いや、俺マニアじゃないから。同意を求めるんじゃない、ど阿呆」
「もちろん俺は正統派メイド派だッ!!最近はメイド服の本来の意味もそっち退けで新たに可愛らしくデザイン、コーディネートし、ミニスカートやらで肌を露出し、かつ、メイドらしからぬモノが蔓延している現状も少なからずある。なんたることかッ!!!!わかってない、全然わかってないッ!!!」
「わかってねぇのはテメェだ。まずは話を聞け」
「俺は敢えて断言し、言わせてもらう。メイド服は元々肌を露出させないために設計されているのだぁッ!!それを取っ払い新たなデザインに溺れ、本来あるべき姿、古風な風潮たる象徴を忘れるとは何事かぁッ!!」
「おーい、そろそろ戻ってこーい」
「メイド服は白と黒のツートンでこれほどの人気を獲得し、今じゃ萌え=メイドとされているのもこれまた事実ッ!!まぁ黒はモノを引き締めて見せる効果があるってよく言うよな。例えば、黒い服を着るとやせて見えるというのがいい例だ。あと、黒い色は端正な印象によって高級感を与えることもあるんだ。つまり、俺の言いたいことはただひとぉぉおおおおおつぅううううッ!!メイドもメイド服も偉大なる人が生み出し超芸術なんだぁぁあああッ!!」
途中からツッコむのをやめた俺に、ビシっと指差す暁。
…朝っぱらからまたアホアホ会話が始まったぜ。
暴走するのは勝手だが、それは俺たちのいないとこでやってくれ。
さらに、続けて暁は、
「俺も今しがたその芸術とも言える甘美なる妖精が集いし花園で妖精たちに言葉では言い表せないくらいの極上ご奉仕を受けたばかりだが、本当に素晴らしかったぜ(ドヤ顔☆)」
ねぇ殴っていい??いいよね??
いや羨ましくねぇし、つーかその爽やかな顔やめろムカっとくる。
ってだからそれはさっき自分で夢って言っただろうが。夢と現実を混合するなよ。
もう朝から何度目のツッコミかもわからないくらい、芸人業に励んでいた俺であるが、そんなのもお構いなしにこのドアホ共はさらにボケをかますのであった。そいつはかえで。『アホ』だ。説明終了。
かえでは、何やらキラキラと光り輝かせて同調するかのように立ち上がり、グッジョブ
してこう言い出す。
「おー☆めっちゃおいしいシチュじゃん!!よかったね、暁☆」
「おうよ」
「って、テメェもかッ!!!かえでッ!!!!」
まったくこいつらは…。
ホントこいつらの将来が心配になってきたぜ。
こいつは、東條暁。茜と同じく腐れ縁の悪友だ。
暁をどんな奴か簡単に説明するとだな…。
『バカ』だ。説明終了。
「おい、今、何か失礼なことを考えなかったか?」
「いや…気のせいだろ」
暁は、納得しない表情でうんうんと首を傾げながら腕組みをしていた。
作品名:Wish プロローグ 作家名:秋月かのん